ロザリア
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「痛っ……ああ、もう面倒くさ！」
何処にでも在る下町の、何処にでも在る荒れた裏路地で。
白金色の髪を肩まで伸ばした少女は、たった今素足で踏み付けてしまったガラス瓶の欠片を足裏から引き抜き、適当に放り投げた。
ぱっくりと開いた傷口から鮮血が流れ落ちて、石畳を赤く染めていく。
「誰も見て……ないよ、な？ よし」
積まれただけの中身が無い木箱に座り、傷付いた右足の踵を左膝の上に乗せ、左手のひらを翳す。
少女の虹彩と同じ薄い緑色の淡い光が手のひらからふわりと放たれ、傷口を柔らかく包んで、流れた血ごとすぅーっと消えた。
名前も年齢も出身も何もかもを何処かに置き去ってしまったらしい少女が、思い通りに操れる不思議な力。他人に見られると至極面倒臭い事になるのは身に染みて理解していた。
どうやらこの力は他の誰も持っていない特殊な物で、知られたら最後、化け物扱いか若しくは……
「見付けましたよ、名無しさん」
「ぎゃあーッ！ 出た、しつこい勧誘男！」
背骨を覆う長さの黒髪を首筋で一つに束ねた全身白装束の神父が、胡散臭い笑顔全開で少女の左手首を掴んだ。
「また怪我をしていたのですね？ ですから私の教会にいらっしゃいと、何度も言っているではありませんか。履き物も失い、ワンピースもボロボロになって……何故其処まで意地になるのです」
この男のようにしつこく力を手に入れたがる輩がいるから、人前では使わないと少女は決めたのだ。
「うるさいなぁ。私は現状に不満なんて無いんだよ！ カミサマに授けられた力とか突然ワケわかんない事言われて、はい、そーですか。喜んでお手伝いしますぅーって、尻尾振って付いてくと思うか？ バカじゃない？」
掴まれた手首を引き剥がそうと振り回してみたり叩いてみたりするが、男の手はがっしりと強く握って離れない。
「ですが、貴女の力は人を癒す物。教典が記す女神アリアと同じ慈悲の力だ。その髪と目の色もアリアと同じ。偶然とは思えないのですよ。きっと貴女は女神アリアが遣わした……」
「あーうっざい！ 今アリアアリアって何回言ったか分かってる！？ 私は生きてく為なら盗みもするし動物だって殺す。あんたらが言う悪徳の塊みたいなモンなんだよ。お偉い聖女サマと一緒にしたら、せっかく任された教会も剥奪されるぞ！」
「アリアは女神です。聖女と称するなら貴女のほうですよ、名無しさん」
「うわ、本当やめて。聖女とか名無しさんとか。聞くに堪えない気持ち悪さなんだけど」
数年前、この下町に流れ着いて直ぐ、先程と同様に足の怪我を治していたら、この男に偶然見られてしまった。
以来この町の何処に居ても、追い掛けて来ては教会へ入れと迫るので、少女は男が頗る苦手だった。
他に行く当ても無いから仕方なく居付いた町だが、他
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