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逆さの砂時計
ロザリア
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話だか。悪いけど私は行くよ」
 手首を引き離そうとして、逆に引っ張られた。男の筋肉質で分厚い胸に顔がぶつかり、逃げようとする体を背中に回された両腕が捕らえる。
 「外は雨だぜ。ゆっくり休んで行けや」
 「気持ち悪い! 触るな!」
 ゴツい指先が背中を伝い下りて腰を撫で回し、更に下へと伸びた。嫌悪に身を捩る様を気に入った男は、片方の手で後頭部を掴んで少女を上向かせ、唇を奪おうとする。
 「やめ……っ」
 「お止めなさい。見苦しい」
 「…………あぁ?」
 酒臭い息が鼻を掠める距離まで迫った所で、男は少女から顔を離す。
 制止の声は、雨に打たれる神父の物だった。
 ずぶ濡れなその姿に、少女は目を丸くする。
 「千客万来だなぁ、オイ。女はともかく、野郎に貸してやる屋根は無ぇぞ」
 「屋根は必要ありません。彼女を解放なさい」
 男は不機嫌に舌を鳴らすと、少女の体を突き飛ばして神父に詰め寄り、問答無用で顔面を殴った。
 荒事に慣れていない体はあっさりと地面に崩れ落ちる。
 「おい!! 殴ることはないだろうが!」
 「うるせぇ。俺のシマで文句タレてんじゃねぇよ」
 腹に容赦無い蹴りを食らった神父の体が、雨の中をごろごろと転がる。
 少女は神父と男の間に転移し、男から庇うように両手を広げて立った。瞳には怯えと怒りが混じっている。
 怒りはともかく、怯えは男でも初めて見る色で、反抗的な女を好む男の興味を削ぐには充分なものだった。
 「チッ……クソつまらねぇ女に成り下がりやがって。ソイツ拾ってとっとと失せろ」
 「……ああ」
 男が建物に入って行くのを見届けてから、苦痛に呻く神父の肩に手を置いて、町外れに在る教会を思い浮かべる。
 次の瞬間には、神父が預かる礼拝堂に居た。
 「っのバカ! 喧嘩もしたこと無いクセに、のこのこと出て来るんじゃない!」
 赤い絨毯の上に転がる神父の腹部に右手のひらを翳して、癒す。
 彼はふわりと優しく微笑んで少女の右手を取り、横になったまま甲に軽く口付けた。
 「貴女が嫌そうにしていたので。私の思い過ごしでしたか?」
 「そうじゃな……っ! ああもう、とにかく無謀な真似は止せ! 私はもう治してやらないからな!」
 手を振り払って立ち上がる少女の草臥(くたび)れたワンピースの裾を掴み、驚いた少女を真っ直ぐ見上げる。
 「此処に居てください。女神の遣いじゃなくても聖女じゃなくても構いません。これ以上ボロボロになって行く姿を見るのは耐えられない。貴女はまだ少女なのですよ」
 「余計なお世話だ。私がズタボロになってくたばろうが野晒しになろうが、あんたには関係無い」
 「なら、関係を作りましょうか」
 「は?」
 神父も立ち上がり、少女の右手をもう一度取ってその甲を額に触れさせた。
 少し
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