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逆さの砂時計
ロザリア
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た。
 記憶の始まりは、朽ちた石造りの神殿。折れて崩れた柱が散乱する廃墟の真ん中で、見も知らぬ下品な男数人に囲まれていた。
 突然腕を掴まれ、衣服を破られ……無理矢理両脚を開かれた瞬間、少女は別の場所に居た。正確には少女に触れていた男達も移動していたのだが。
 助けてと願って転移した場所は、其処もまた見知らぬ町のど真ん中。
 いきなり現れた少女達に驚いた町人だったが、少女のあられもない姿に気付いた数人が男達を取り押さえ、その場は無事で済んだ。
 しかし。
 記憶も無い身寄りも無い、明らかに問題を抱えていそうなボロ姿のみすぼらしい女を拾ってやろうという親切な人間がいる筈もなく、少女は荒れ果てた下町を渡り歩く浮浪児になった。
 時には施しをくれる優しい人間もいた。生きる術を教えてくれる悪友もできた。体目当てに嘘を吐いて擦り寄る気持ち悪い男や強引に襲い掛かる獣じみた男の方が圧倒的に多かったが、それらは空間移動を使って巧く避けた。
 男に組み敷かれて怖いと思うだけの清純さはとっくに棄てた。
 世の大半は餓えた野獣だ。怯えるだけ無駄。勿論そんな男達に喰われるつもりは無い……が。
 少女が誰かを直接傷付けたのは初めてだった。幸いにも逃げる術があって、武器を持つ必要が無かったから。
 刺し貫いた感触が骨にまで染み付いて、少女の体を震わせる。それが男に襲われる以上に怖い事だとは思っていなかった。
 「……なんなんだよ、くそ……っ」
 男の手の感触が、少女に青く染まった笑顔を思い出させる。
 あんな事までしたのに笑い掛けるあの男は、莫迦なんだろうか?
 いや、莫迦なんだろう。莫迦以外の何者でもない莫迦だ。
 ぎゅうっと膝を抱えて縮こまる少女の肩に、ポツンと冷たい物が落ちて弾けた。
 雨だ。
 そう認識した途端、大きな雨粒が滝になって降り注いだ。
 屋根が在る所へ行こうと立ち上がり、適当に空間移動を使って……瞬時に後悔した。
 「…………お前」
 この下町のゴロツキを束ねる、見るからに悪い顔の男が目の前に居た。
 性格の不一致とでも言うのか、あまり良好な関係とは表現できない間柄だ。喧嘩になりかけた回数も少なくない。それでも力は見せていなかった相手。
 「どっから現れやがった」
 「……直ぐに出てくから気にすんな」
 目で確認した限り、この悪漢が牛耳るアジトの入口らしい。男の背後数歩先に雨滝のカーテンが見えた。他の仲間が居ないのは幸運だったが……もっと条件を細かく指定するべきだった。
 「待て。そう言えばお前、よく裏路地で姿を晦ませてたよな」
 男が左手首を掴む。その黒い目に宿る好奇に気付いた少女は、本能でヤバイと感じた。
 こういう輩は力を恐れない……とは、少女自身の経験則だ。
 「面白ぇじゃねーか。なぁ?」
 「何の
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