ロザリア
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所と違って女と見れば見境なく喰らい付きたがる野獣共が居ない分、気に入っている。
このしつこい勧誘さえ無ければなお良かった。
「貴女は名前なんか無いと仰っていました。無いものをどうお呼びすれば」
「呼ばんで良い。関わるな」
木箱を降りて転がっている割れたガラス瓶を右手で拾い、離す気配が無い手の甲の真上に掲げる。さすがに避けるだろうと思い、容赦無く振り下ろして……
「……な……んな……っ!?」
肉を刺し、骨を削る感触に絶句する。
男の手の甲深くに突き刺さったそれは、少女の手にも届いて小さな傷を付けた。
「……っ少し、痛みましたか? すみません……」
「いや、痛みは無いけど……って、そうじゃないだろ! 痛いのはあんただろうが!! なんで避けるとかしないかな!?」
慌てて引き抜くと、塞いでいた物が無くなった場所から鮮血が一気に溢れ出し、二人の手を濡らした。
「だって、逃げるでしょう……?」
男の顔色がみるみる青褪める。
なのに、笑ってる。
「当たり前だ! んなの、今更だ! どう説得されたって行く訳ないだろうが、このバカ!!」
そう叫びながらもガラス瓶を放り投げ、男の手に右手を翳す。
淡い光が二人に舞い降りて……傷も血も、跡形も無く消し去った。
男の顔色も健康な物に戻っていく。
「ちくしょう……。こんな事に使わせるなよ、本当に……バカ」
治療が終わってだらりと右手を落とした少女の頬を、癒された男の手がそっと撫でた。
「やはり貴女は聖女だ。人を傷付けるのは嫌なんですね。大丈夫です。貴女がこうして治してくれましたから。もう大丈夫ですから、泣かないで」
頬を、顎を伝い落ちる涙を指先で掬って少女に笑い掛ける。
「……っさい!! 二度と私の前に現れるな、変態神父!!」
男の手を払い除けて数歩退くと、少女の体が突然消えた。
男は驚いて辺りを見回すが、やはり姿は無い。
暫くの間茫然と立ち竦んで……教会へと戻ることにした。
「あー……くそぅ……気分悪ぃ」
右手に残る感触を払おうとブンブン振り回していたら、石造りの壁に思いっ切りぶつけてしまった。
小指がありえない方向に曲がっても、力を使えば元に戻った。
だと言うのに、感触は消せない。人を傷付けた感触は、どうやっても消せないのだ。
少女は男の所為だ知るもんかと愚痴るが、不覚にも涙が止まらない。
「……むかつく……っ」
同じ町の中。さっきの場所とは違う裏路地で、膝を抱えて座り込んだ。鼠が物影から飛び出すのを黙って見送る。
掴まれていた左手首が疼いた。治療しても残る男の手の感触が、少女の背筋に寒気を誘う。
空間移動……この力が使えるようになったのは、少女が少女だと自覚したまさにその瞬間だっ
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