6部分:第六章
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そのうち。わし等が生きなければならなかったというのも。否定されるじゃろうな」
「全部。そうなるのか」
「それが何時まで続くか永遠か」
「どちらにしろ。大義はないのですか」
「もうそんなものはのうなったわ。あるのは向こうの大義だけじゃ」
「アメリカの」
「それかソ連のな。それだけは我慢ならんが」
神主はソ連が嫌いであった。若い頃は日露戦争に参加していたという。だがそれ以上に。ソ連という国が大嫌いであったのだ。それを隠そうともしなかった。
「革命じゃとか言っておるな、あいつ等」
「ええ」
共産主義革命のことである。プロレタリアートによるプロレタリアートによる革命。戦後の日本を長い間蝕んできた革命思想が覆うのもまた終戦直後からであった。
「あれはな、嘘じゃ」
「嘘ですか」
「実際はあれはとんでもない奴等じゃ」
「そんなに」
「結局な、極楽なんてもんはこの世にはないのじゃ」
そしてこう述べた。
「極楽は死んでからある。この世には有り得ないものじゃ」
「じゃあ労働者の天国というのは」
「どうで嘘っぱちじゃ」
「嘘っぱち」
「あるとすれば地獄じゃな」
「そんな・・・・・・」
「いや、そうかもな」
僧侶も神父の言葉に頷いてきた。
「あの国はな、得体の知れんものを感じる」
「得体の」
「放っておけば恐ろしいことになる。このまま放っておけば」
「・・・・・・・・・」
「挙句の果てに潰れて。後に残るのは瓦礫の山かもな」
「どういうことですか、それは」
「人間の出来ることなぞな、御仏の為されることに比べれば些細なことなのはわかるじゃろ」
「はい、それは」
神父は今度は僧侶の言葉に応えた。
「御仏のされることを人がしようとすればとんでもないことになるのじゃ。あれは行き着く先は地獄じゃろう」
「地獄、ですか」
「わしも神主さんと同じじゃ。あの国はろくでもない」
「はあ」
「信じておるととんでもないことになる。そう思っておる」
「ですか」
「しかしもうわし等には何ものうなっておるのは事実じゃ」
神主の言葉は相変わらず力がなくなってしまっていた。
「何もかもな」
「そんな・・・・・・」
「もう終まいなのかもな」
僧侶はその力のない声のまま語る。
「日本は」
「けれど負けるのは」
「正直それでも鐘がなくなるとは思っておらんかったわ」
これは神主の言葉だった。
「街もなくなるなぞ。考えもせんかった」
「・・・・・・・・・」
「もうな、わし等は罪人かも知れん」
「戦争に負けたら罪人なんですか」
「そういう戦争じゃったらしい。ポツダム宣言とかがあったじゃろう」
「ええ」
降伏勧告の様なものであった。そしてそれを日本政府が受け入れなかった為に原子爆弾が投下されたのだ。
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