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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第二十話
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武器の消耗を直すためだけについていくんだけどね。伊達に《戦える鍛冶師》と呼ばれてるわけじゃないわ」

 私には縁の無い話だったけど、前世にも似たようなことが結構あった。【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が合同で深層に潜る際に、よく鍛冶師の同行を募る掲示板を見かけたものだ。そのときから【ヘファイストス・ファミリア】が参加していたから、今も昔も冒険者は変わらないものだ。

 しかし、遠征か……。確か()()()五十八階層まで進んでいることになっているんだっけか。

 私の追憶を察したのか、ナチュルは少し気難しい顔に歪めたが、すぐに引っ込めて率直に言った。

「それで、深層について聞きたいことがあるのよ。……構わないかしら?」

 何のことかと思ったら、そう言えばナチュルには私のことをクレアではなくレイナとして接してくれと頼んでいた。これは身元の隠蔽することも含まれるけど、同時にクレアという魂がレイナの体を乗っ取っているという事実を忘れないためだ。形而上の話だから気にしなくて良いのかもしれないけど、やはり本来入るべきだったレイナの魂があったはずだ。それを私の都合で押しのけて奪い取ってしまって今に至る。だから、せめて両親が付けてくれた名前を名乗ることにしているのだ。

 たぶんそれがナチュルにとって、前世のことに触れないでほしい、というサインだと受け取れたのだろう。意図していなかったとはいえ、誤解を招いてしまった。

「大丈夫ですよ。前世のことなら覚えてる限り話します」
「っ本当!? じゃあ前世の時に使ってた薙刀の出自を……、じゃなくて!」

 相変わらず頭には薙刀の事で詰まっていた。恥じ入るように火照った頬を汗と共に拭い去ったナチュルは少し不安げな表情を浮かべた。


「……深層はどんな場所だった? 私は三十階層以降に降りたことがないのよ。そもそも、今回私に声が掛かったのは団長の気まぐれのようなものだし……」
「つまり、万が一のときに自分の力で抵抗できるか不安、と」
「そういうこと。Lv.5とかLv.6の連中が手こずる場所よ? Lv.3の私じゃ成す術も無いんじゃないかって、ちょっと不安なのよ」

 遠征時に専門外である鍛冶師が戦場に同伴するというのは、普通に考えて危険極まりない。専門家である冒険者たちでさえ死人が続出する死地に、素人とまで言わないが彼ら以下の鍛冶師が生きて帰ってこれる道理はない。
 それでもなぜ連れ出すかというと、武器の損耗を回復できるメリットと、鍛冶師を守りながら進むデメリットが釣り合っているからだ。それに上層までなら鍛冶師たちも十分戦力になるという点もある。

 だが、最深層は? 冒険者たちは己の身を守るのに精一杯で、鍛冶師たちを庇う余裕は無いんじゃないか? 

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