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バフォメット
7部分:第七章
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えはしない。
「何も見えないが」
「陛下は一体何を御覧になられているのだ」
「そうか、去らぬか」
 王は剣呑な顔になり息を荒くさせた。そして。
「ならばわしがこの手で」
「な、どうされたのだ」
「陛下、御気を確かに」
 不意に腰にある剣に手をかけそれを引き抜いたのだ。それを滅茶苦茶に縦横に振り回す。宴の場は大混乱になり誰もが王から逃げ惑う。王は昼も夜もうなされ何かに怯えていた。そしてことあるごとに剣を抜き空を切り回す。そしてそれは教皇も同じだった。
「悪魔よ、去れ!」
 あらぬところを見て叫ぶのだった。
「余は神の代理人ぞ!悪魔なぞ恐れはせぬ!」
「悪魔ですと?」
「教皇様、ここはローマです」
 言うまでもなく教皇庁がある教皇の街だ。この世で最も聖なる場所とされている街である。
「悪魔なぞは入られる筈が」
「そうです。お戯れを」
「そなた達には見えてはおらんのか」
 だが教皇は彼等のその言葉を否定する。
「何がでしょうか」
「あれだ」
 空を指差す。そこには何もない。だが教皇は言うのだ。
「あそこにいるのだ。山羊が」
「山羊が」
「雄山羊の頭に。何とおぞましい」
 指を震わせながら言葉を続ける。
「女の乳房がある。そして忌まわしい蝙蝠の翼までがある」
「馬鹿な、そのようなものが」
「いる筈が」
「黙れ!」
 恐怖に満ちた声で叫んだ。
「いるのだ。わしがいると言えばいる!」
「教皇様、お静かに」
「いますが。だが」
「そうだ、いるのだ」
 教皇の言葉は真実だ。だからそれは認めた。見えはしなくとも。教皇はさらに言葉を続けるのだった。
「あそこにな。悪魔が」
「一体どうされたのだ」
「そんなものは」
「馬鹿な、何故見えぬ」
 教皇にとっては信じられぬことだった。あくまで彼は。

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