2期/ヨハン編
K17 正義のために悪を貫け
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らが何か勝負事をしたわけでもないのに、確かに先ほどのやりとりには勝敗があり、勝利を掴んだのはヨハンのほうだったのだと思った。
「――ドクターへの恭順。それがあなたの答えなのね、ヨハン」
マリアが俯いたまま呟いた。
「偽りの想いで世界は守れない。セレナの遺志を継ぐことなんてできやしない。全ては力。力がなければ正義を成すことなんてできやしない。だからドクターにああ答えた。そういうことなのね?」
「ああ」
肯いた声は、調が知るヨハンの声の中で一番低く、暗かった。
(そんなのイヤだよ。だってそれじゃ、力で弱い人たちを押さえ込むってことだよ。そうしないで人を助けることができるって言われたから、わたしもきりちゃんも付いてこうって。なのに。マリア。ヨハン。二人ともどうしちゃったの? どうして変わっちゃったの?)
考えていた調の前で、ヨハンが唐突に跪き、調の手を取った。
戸惑う調にお構いなしに、ヨハンは調の手の甲に、騎士が姫君にするように、口づけた。
「大丈夫。例え道具にされたって、心まで支配されることは絶対ありえないから」
先と異なり、どこかさびしげな微笑み。こんなヨハンを調は知らない。
「それが偽りの“フィーネ”とその騎士ではなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴとヨハン・K・オスティナの選択なのですね」
「――――」
「はい」
マリアとヨハンを見つめていたナスターシャが、咳き込んだ。
「「マムっ」」
調はナスターシャの手を取った。
ヨハンが立ち上がってナスターシャを見下ろした。
「今日の騒ぎでマムの体には相当な負担があったはずです。今日はもう休んでください。明日からのことは、明日に考えましょう」
「――そうですね」
ヨハンが車椅子を押して部屋を出ていく。
調はヨハンの背中を見つめていたが、彼の真意は読めなかった。
(こわい)
未来はケージの中、膝を抱えて顔をそこにうずめた。
――東京スカイタワーで響が戦いに行った直後だった。床を突き破ってマリア・カデンツァヴナ・イヴが現れたのは。
“死にたくなければ来い!”
マリアが伸べた手を、未来は掴み返した。
敵であっても、命が助かるならば。響が言うように、生きるのを諦めてはいけないと思ったから。
(響。早く来て)
部屋のドアがスライドした。未来はびくんと肩を跳ねさせた。
入ってきたのは、ヨハンだった。
「まだ起きていたんですね。……こんな硬い床で眠れるわけもないか」
ヨハンは歩いてきて未来の正面に立った。
彼が床に置いたのは、薄い毛布と、湯気の立つシチューの入った器と、ミネラルウォーターのペットボトル。
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