雪の白さに蓮は染まりて
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時代にもきっと言われ続けたかもしれない。太守になってからも部下に呆れられたりと何かとそういった意識が着いて行った。
今は、どうか。
絶望を経験したその女が、普通で落ち着くはずなどない。
『英雄』と、“その大地”では呼ばれている。北を守り抜き、幾多の外敵の侵略を阻んできた絶対なる強者。白馬に跨りて敵を討ち、義に従う男共を従えて大地を駆ける北方の最英雄。
その女の名は、公孫伯珪と言った。
「……急な押しかけ申し訳ない。何分、急を要する案件であった為に通行路の賊徒は殲滅して来たけど……構わなかったか? 孫呉の姫君」
言われてすっと目を細めた蓮華は、白蓮と真っ直ぐに瞳を合わせた。
――この女……私の器を測ってる……。
少しだけ穏やかさに呑まれそうになっていた。
此処に来た白馬の王は敵では無いが……味方でも無いのだ。
身分も上で経験も上、民を治めて信頼を勝ち取り、孫呉とほぼ同じような大地をコツコツと作り上げて来たその王が、ただ単純な友好関係など築こうとするわけが無い。
蓮華はそう思う。
真摯な瞳には嘘は無い。只々、本当に用事があっただけだと伝えるように。
此処で弱みを見せるのは拙い。蓮華が王として彼女と相対するのなら、弱気な素振りも、困っていたという事実も封殺するべき。
「ああ、構わない。しかし賊徒と戦ってまで届けたい案件とは劉備に何かあった……いや……まずは初めまして、というべきかな公孫伯珪殿? 私は孫権、孫仲謀だ」
力強い蒼の瞳の輝きに、白蓮の唇から僅かに嘆息が漏れる。
分かった上でそう返してきたか……口の中で零して、少しばかり楽しげに。
「これは失礼致した。私は公孫賛、公孫伯珪という。先に名を名乗らなかった無礼、まことに申し訳ない」
「それほど急いでいたという事だろう? お気になさるな」
「かたじけない」
くつくつと喉を鳴らしたのは蓮華だった。せめて少しでも王たる姿をみせる為。普段の彼女とは違い、この玉座に座る彼女は孫呉の王で居なければならないのだから。
反して、白蓮はゆっくりと首を左右に振る。頬を緩めて、呆れたように笑いながら。
白蓮には蓮華の姿が、昔の自分とダブって見えた。
――昔の私はこんな風に見えていたんだなぁ。
白と黒に絆される前の自分が其処に居る。信頼を置く友は傍に居るかもしれない。でも、長く一人で積み上げて来た白蓮と違って、蓮華に掛かる重責は姉という身近な存在が居る以上近しいように見えた。
どうにかならないか、とまず思った。
一目見て分かったのだ。化粧で誤魔化しても誤魔化しきれていない不調の様子も、部下が向ける心配や、客に向ける空気、謁見の重苦しさも昔の自分の時と酷似していた。
だから白蓮は普通に話し掛けた。
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