雪の白さに蓮は染まりて
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て抑えることが出来るような王では無い。
呑み込む術は知っているが、自身の不足と不甲斐無さにハラワタが煮えくり返ってもいる。
感情的になるなと己を高めてきたとしても、剣を振るえば救える人が居るのだから、動かずには要られない。
冷たい声が唇から洩れた。
「無理よ、冥琳」
ゆっくり、ゆっくりと顔を上げた雪蓮の瞳は、暗く昏く濁っていた。
引き裂かれた口は笑みのカタチ。ぞっとするような妖艶さを伴って。
「だって……私の家は、“此処”なんだもん」
大地が血を吸っていた。
人々の涙が零れていた。
大好きなこの土地が、乱世というだけで穢され汚される。
雪蓮の想いはただの民と変わらない。
年寄りや子供が平穏に暮らしている其処で酒を飲んで笑って、そうして幸せに暮らしたいただの娘でもある。
故にこの地の民に支持される。民にまで目を向ける優しい王が、雪蓮なのだから。
前に彼女が言っていた。公孫賛と自分は同類だと。
間違いなく、雪蓮は白馬の王と同じく民の側に立てる人徳の王だった。
「……孫呉の勇者達よ」
いつもなら張り上げていたはずの声は静かに紡がれた。
其処にある怒りを読み取って、兵士達は己の内にある炎をより一層燃え上がらせる。
冥琳は何も言わない。彼女の想いも同じで、止めるつもりもなかった。
「劉表軍を……皆殺しにせよ」
帰還した戦姫が舞い踊る。
始まりは堕ちてしまった賊徒から。
怒りに燃える飢えた虎の首輪は、もうどこにも無かった。
†
急遽開かれた謁見の機会。
その場に居たのは蓮華と亞莎、そして小蓮に明命。
今しがた、姉の本隊が揚州に入ったと報告があった。この戦の収束もやっと見え始めたのだ。
故に亞莎は今回訪れた来客の時機に違和感を覚えずに居られない。
出来すぎている。救いの手を差し伸べる時機が良過ぎた。南からその部隊が救援を行い、北から姉の本隊が徐々に食い切って行くのは都合が良過ぎた。
絶妙な時期で差しはさまれたその救援は、蓮華としてか孫呉としてか、借りとして後々まで残ることになるのは間違いない。
誰が……など考えずとも分かる。世に広く聞く天才軍師が、孫呉に何かを求めようとしているのだ。
自身の土地もまだ持てぬあの仁徳の君の為に。
静まり返る謁見の間に、一人の女が現れる。軍靴の音は重苦しさを伴わず、すっと耳に入っても気にならない事が何故なのか、誰にも分からない。
凛とした空気は研ぎ澄まされていた。穏やかな雰囲気は覇気に彩られつつも威圧を与えず。人の好さそうなその女の表情は、事務的にも見えるし感情的にも見えた。
普通だ普通だと、嘗て誰かが言った。学生
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