第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
[9/9]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
ると言った男に対し、鬼だ悪魔だではなくお前は人だとっ!」
アンリエッタの言葉に、ジョゼフは爆発したかのように笑い出す。
今度は大げさな身振り手振りはない。
代わりに、何処か虚無的な何かを感じた。
怒り、哀しみ、憎しみ、哀れみ、様々な感情を胸に抱きながらも、アンリエッタは大きく頷いてみせた。
「人、だからこそ、です」
「―――な、に?」
明らかに、ジョゼフの声が動揺に揺れた。
訝しげに細められる目で見下ろされるアンリエッタは、静かな、穏やかといっていい程に落ち着いた様子をみせてる。
それどころか、その顔には小さな笑みさえ浮かんでいた。
苦笑、とも、自嘲とも言える笑みであったが。
「案外と、わたくしとあなたは似ているのかもしれません」
「何を―――」
「陛下?」
「…………」
「っ……」
部屋にいる全ての者の視線がアンリエッタに集まる。
困惑、動揺、好奇、不信……四種の視線を向けられながら、アンリエッタは小さく呟いた。
「……なら、わたくしは待ちましょう」
「貴様、一体何を? 狂ったか?」
誰かに話しかける、というよりも、自身に言い聞かせるように話し続けるアンリエッタを、ジョゼフが探るような目で見つめている。
「ふふ……確かに、わたくしは狂ってるのかもしれません。ですが、それでも構いません。最近、そういうタチの女だと自分でもわかってきましたので……ですから、わたくしはその狂った心に従い待つことに決めました」
「……何を待つというのだ?」
気圧されたように抑えられた声で向けられたジョゼフからの問いに応えたのは微笑みであった。
敵に囚われた身の上で、命の保証がない状態でありながら、アンリエッタは笑ってみせた。
それはまるで花のような微笑みであった。
それこそまさに、甘い香りを溢れんばかりに放ち咲き誇る華が、夜露に濡れたその身を月光に照らし出されたかのような―――。
幽玄でありながら、生々しい。
恐ろしいまでに―――色付いた。
艶然たる、笑みであった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ