第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
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停止する。
「ああ、そうだ……おれは知りたい、いや、取り戻したいのだ。人の心を―――故にこそ見たいのだ。悲鳴を、嘆きを、絶望を―――そのためならば何でもしようっ! エルフとも手を組むことも、戦争を起こすこともっ! 地獄すら創ってみせようッ!!」
宣言するように叫ぶジョゼフは、腕を振り、空を仰ぎ、拳を握り締めぶるぶると震わせてみせる。まるで何かの演劇をしているかのように大げさな動き。傍から見れば滑稽に感じられるほどだが、口にする言葉は洒落にならない。なにせ、それを口にする者はそれを実現出来る力を持っているのだから。
だからこそ、この姿を見る者がいるならばこう思うだろう。
狂っている、と。
確かにそうだろう。
地獄を創ると口にする男が、まともであるはずがない。
「狂人が……」
アニエスが憎々しげにジョゼフを睨み付ける。
もしもワルドに羽交い絞めにされていなければ、一気に襲いかかっていただろう。今にも噛み付きそうな目で睨みつけている。
その時、アンリエッタがポツリと言葉を溢した。
「あなたは……」
「何だ?」
「悲しい人ですね」
「―――……」
見下ろしてくるジョゼフを、アンリエッタはじっと見つめる。
冷たい。
凍りついた瞳。
感情という名の熱を感じられない目。
しかし、その中にアンリエッタは何故か親近感を抱いた。
「一体、あなたに何があったというのですか?」
「……おれを哀れんでいるのか?」
苛立った様子も、怒る様子もなく、ただ淡々とした様子で疑問を上げてくるジョゼフ。
まるで人形。
ワルドなどよりもよっぽと人形に近い。
「いいえ」
問いに、アンリエッタは首を横に振った。
「では、何故そんな目でおれを見る」
「……目、ですか?」
「そうだ、そのような悼む様な目で、何故おれを見る?」
ずいっと顔を寄せてくるジョゼフ。アンリエッタは間近に迫ったジョゼフの顔を―――瞳をじっと見つめた。
「恐ろしくはないのか? 憎くはないのか?」
テーブルに押さえつけられた姿のまま、ゆっくりと瞼を閉じたアンリエッタは、数秒の沈黙の後、ゆっくりと目を開けた。
「はい……わたくしはあなたが恐ろしく、そして憎くいです」
「では―――」
ジョゼフが何かを言う前に、アンリエッタは言葉を続けた。
「ですが、気付いてしまったのです」
「……何をだ」
ジョゼフの淡々とした声が、妙に重く、低く聞こえた。
底知れない何かが混ざった声に、しかしアンリエッタは真っ直ぐにジョゼフの目を見つめ―――言った。
「あなたが人であることに」
「……ふ、ははははっ!! この場でそれを口にするかっ! 己のために地獄を創
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