第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
在》”を使ったと聞きます。これも、そうでしょう……処分は如何様にでも受けますので、どうかこの場は落ち着かれてください」
ワルド―――分身か本体かどうかは不明だが―――に羽交い絞めにされていなければ、その場で額を床に擦りつけかねない勢いのアニエスの姿に、アンリエッタは幾分かの落ち着きを取り戻し痛みに顔を顰めながら深呼吸をした。
そしてゆっくりと改めて自分を押さえ付ける男を眺めた。
するとわかってくることもある。
病的にまで白いと感じた顔色は、血が通っていないからであり、肌に感じる男の掌が人とは思えないほど硬く冷たいのは、人間の肉体とは既に別物であるだろうから等といった事がわかってきた。
アンリエッタは、一度キッとワルドを睨みつけると、自分を心配気に見つめるアニエスにこくりと一つ頭を頷かせた。
「……わかりました。まだ完全に理解はしていませんが……この男がただの人形であるとだけは理解しました」
「陛下―――」
「―――それはどうかな?」
「っ」
落ち着きを取り戻したアンリエッタに、アニエスが安堵の息を吐いた時、割り込むように揶揄うような口調でジョゼフが口を挟んできた。
「……どういう、事ですか?」
背後からワルドから押さえつけられ、頬にテーブルを当てた姿で見上げてくるアンリエッタを見下ろしていたジョゼフは、ゆっくりと顔を上げた。
「さて、と。どいう気分かねワルド。かつての主君を下に引いた気分は?」
「別ニドウモコウモナイ。元カラワタシハコノ女ヲ主ダト思ッタコトハ一度モナイカラナ」
「「―――ッ?!!」」
アンリエッタとアニエスの口から声のない悲鳴が上がった。
それも無理のないことだろう。ジョゼフの問いかけに流暢な声で返したのは、人形となった筈のワルドの死体であるのだから。確かに魔法人形の中には喋るものもある。だが、そういったものは、機能として組み込まれた限定的な言葉や、何処かで誰かが話すのを中継しているだけといったものだ。
しかし、明らかに今のは違った。
ジョゼフの問いに即座に応えただけでなく、そこには確かな知性や感情を感じられた。
アンリエッタはぎりぎりと首を回し顔を後ろへと向ける。
そして自分を見下ろす男―――ワルドと目線があった。
「っ、あな、た―――」
交わす視線に見たのは、人形とは明らかに違う意思が篭った瞳。
「無理ハシナイホウガイイ。下手ヲスレバ骨ガ折レルゾ」
何処か硬い、しかし流暢な声でワルドの姿をした何かが口を開く。
アンリエッタは胸の中に渦巻く熱を大きく息を吐くことで落ち着かせると、テーブルの向かいに立つジョゼフを睨みつけた。
「魔法人形では、なかったのですか?」
「いや、その通りだ……まあ、正確には違うのだが
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ