第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
の凶行に、誰も動けないでいた。
ジョゼフも、その背後に控えるミョズニトニルンも、アンリエッタの味方であるアニエスも。
アンリエッタに確信が走る。
―――殺った。
飛び込むようにテーブルに身体を寄せ、ジョゼフに飛びかかったアンリエッタ。手は十分にジョゼフの身体に届き、ナイフは確実に心の蔵に突き刺さるだろう。
しかし、そうはならなかった。
確かにアンリエッタの突然の凶行に反応できた人間はいなかった。
ジョゼフも、ミョズニトニルンも、アニエスさえも。
しかし、アンリエッタも、アニエスも気付いていなかったが、実はこの晩餐室にはもう一人いたのだった。
「―――ガッ―――っぁ?!」
「陛―――っく、な!?」
ガンっ!! とテーブルが大きく揺れ、肉が叩き付けられる音とくぐもった悲鳴が上がる。何処かから現れた男が、テーブルの上にアニエスが押さえつけていた。我を取り戻したアニエスがアンリエッタを救うため飛び出そうとしたが、背後から突如現れた何者かに組み付かれてしまう。
「な……だ、誰が―――っぁ」
「―――っき、貴様はっ!?」
テーブルの押さえつけられたアンリエッタが、痛みに朦朧としながらも顔を上げ。アニエスがアンリエッタを救おうともがき、背後を振り返り自分を羽交い絞めする者を見る。そして同時に自分を抑える男の姿をその目で捉え、驚愕の声を上げた。
「「―――ワルドっ?!」」
元トリステインの貴族であったが、レコン・キスタと通じ国を裏切り、レコン・キスタ崩壊と共に死んだと考えられていた男であった。
トレードマークであった羽根つきのつば広帽を被った姿ではないが間違いない。全身を隠すように身に纏った黒いローブから覗く顔は、病的に白かったが、過去何度となく見た男の顔であった。
「ま、まさか生きていたなんて……」
死んだと聞いていた男が目の前にしたアンリエッタは、痛みを忘れたかのように自分を押さえ付けるワルドを憎しみの篭った目で睨み付ける。今にも自ら骨を折ってでもワルドに飛びかかりそうな主の姿に、アニエスは焦った様子で声を上げた。
「ま、待ってください陛下っ! その男は既に死んでいる筈ですっ! 今ここにいるのは、ワルドの死体を利用した魔法人形ですっ!!」
「人、形? まさか……これが?」
アニエスの言葉に目を見開くアンリエッタ。驚きに怒りに一瞬の空白が出来た隙に、アニエスは畳み掛けるように言葉を告げる。
「そうです。この男―――ワルドの死体を利用した“ベルセルク”という名の魔法人形との戦闘があったと、実は以前シロウ殿から報告を受けていましたが、撃退したと聞き、陛下の心情を慮り勝手な判断で報告しませんでした。その際、その“ベルセルク”は魔法を、“|ユビキタス《偏
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ