第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
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胸を何時までも蝕む地獄を、この目で」
何の感情も見せない顔とは裏腹に、向けられる瞳の奥は静かだが底冷えする異様な輝きを見せている。
アンリエッタは本能的にジョゼフが言っていることは真実なのだと理解した。
それと同時に覚悟を決めた。
何時からかはわからないが、アンリエッタは元からジョゼフに何か違和感を感じていた。
それが正確に何にだったかはわからなかったが、今になってわかった。
―――感じなかったのだ。
数える程度しか顔を合わせた事はないが、ジョゼフが何かの感情を見せる時、どことなく空虚な印象を感じていた。ただ、それは気のせいだと思っていた。だが、それは正しかった。
演技だったのだろう。
この男に、正常な感情はない。
それが生まれた時からなのか、それとも違うのかはわからない。
ただ、今重要なのは、この男は本気で、『地獄が見たい』と狂った言葉を口にしている。
そう、間違いなく本気だ。
この男は間違いなく本気で地獄が見たいのだ。
そのために。
そのためだけに、動いていたのだ。
昔も、今も、そしてこれからも―――。
なら、どうすればいい。
この男は自分が最も避けたいものが欲しいと言っている。
それを阻止するために、今、自分はここにいるのに。
無理だ。
例えどのような提案でもこの男を止める事は不可能。
なら、最早残された方法は一つしかない。
万が一。
いや、億が一にと考え用意していた正真正銘最後の手。
これを使えば生きて帰る事は不可能。
しかし、今ここで動かなければ、何百、何千、下手すれば何万もの命が無駄に散ってしまう。
だから、覚悟は一瞬で済んだ。
違う―――元から覚悟は決めていた。
「―――だから、おれは“聖戦”など児戯にすらならない地獄をつくりだ―――」
揶揄うような様子を欠片も見せず、真顔でアンリエッタに言い募ってくるジョゼフ。
テーブルを挟み相対するジョゼフに、アンリエッタは
「―――ッ!!!」
襲いかかった。
万が一。
戦争状態のガリアである。突然の訪問。それも非公式だ。王族に対する身体検査などあってもなきのようなものだろうと、あったとしても杖を取られる程度。だからこそ、万が一の時のため用意していたナイフ。
まさか、メイジがナイフを使うなど誰も考えはしない。
懐に隠し持っていた刀身僅かに10センチ程度のナイフ。だが、胸に刺せばその切っ先は確実に心臓に届き、相手の命を奪うだろう。
確実に刺し貫くため、柄をがっちりと両手で握る。アンリエッタとジョゼフを遮るものは両者の間に置かれたテーブルだけ。
飛びかかれば問題はない距離であった。
アンリエッタの突然
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