番外編:Birthday Of Victor
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
ってくれ」
「ルドガー……私を―――殺して」
その言葉にルドガーの顔が凍り付く。
そして聞き間違いだと信じてラルを見るがラルは穏やかな笑みで彼を見つめてそれが真実だという事を告げる。
彼はそれだけはやめてくれと必死に首を振るがラルはそんな彼の頬を優しく撫でて、彼の仮面を取る。
「あなたを……エルを……忘れたまま、死にたくないの。
お願い、ルドガー。私を―――あなたを愛した私のまま死なせて」
その言葉はどんな呪いよりも強力だった。
愛しているからこそ殺して欲しいというささやかな願い。
愛する者への永遠の呪縛。彼の心に永遠に生き続ける方法。
「君は……卑怯だ…っ! そんな言い方をされたら……断れないじゃないか…っ!」
「ごめんなさい……ルドガー」
涙を流しながら何とか喋るルドガーにラルは微笑みかける。
ルドガーはその笑みにさらに顔を歪ませて俯く。
そして、しばらくそのままの状態で泣いていたがやがて顔を上げてラルに優しく最後の口づけをする。
「愛してるわ、ルドガー」
「ああ……俺も、愛してるよ、ラル」
そしてルドガーはラルを優しく抱え起こして時計を握る。
顔が見える様に傷だらけのスリークオーター骸殻になり、震えながらラルに向けて槍を構える。
涙で視界が霞み最後だというのに愛しい人の顔が良く見えない。
そんなルドガーを安心させるようにラルは笑いかけて最後に言葉をかける。
「安心して、ルドガー。愛する人に殺されるのって案外嬉しいことだから」
「………ラルッ!」
「ルドガー……私を―――愛してくれて……ありがとう」
その言葉を最後にしてルドガーは声にならない叫び声をあげながらラルを刺し殺す。
そして、崩れ落ちる彼女を抱きしめながら泣き叫ぶ。
流れる彼女の血は彼の骸殻を赤く、赤く染め上げていく。
彼女は最後の最後にルドガーの頬を優しく撫でてから、その手を力なく落とす。
これがラル・メル・マータとルドガー・ウィル・クルスニクの最後の愛の形だった。
「うわぁぁぁああああっ!!」
彼の泣き声だけが辺りに響き渡るその様はこの世界の残酷さを表していた。
しばらく泣き通した後、彼の頭にある考えがよぎる。
なぜ、自分には当たり前の幸せすら許されないのか。
そもそも、こうなってしまったのは何が悪いのかと。
彼は考え続けてやがてある結論に達する。
「ははは……なんて馬鹿だったんだ、俺は。偽物の世界に……幸せなんて許されるはずもない! 滑稽だ! あーはっはっは! 何もかも偽物だからいけないんだっ!!」
彼は狂ったように笑いながらそう叫ぶ。
その姿を誰が間違っているなどと言えるだろうか。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ