番外編:Birthday Of Victor
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「ルドガー、こっち、こっち!」
「そんなに走ると危ないぞ、エル」
「もー、ルドガーはシンパイショウなんだから」
アメジスト色の目をした少女がエメラルド色の目をした青年の前を元気良く駆ける。
それを青年は仕方がないな、といった表情で追っていく。
これは彼が一人の少女と出会い、共に旅をした幸せな記憶。
ヴィクトルがまだルドガーであった時の記憶。
初出勤の日に、少女から痴漢冤罪を掛けられ、その後すぐに列車テロに巻き込まれたルドガーだったが日が経つにつれて二人の仲はどんどん仲良くなっていった。
そして、月が綺麗に輝く夜に二人はある約束を結んだ。
『そっか、じゃあエルとルドガーは“アイボー”だね!』
ルドガーの返事に嬉しそうな顔をして自宅前にある公園のブランコから降りるエル。
そして再び真剣な顔になりルドガーを見上げる。ルドガーも真剣な面持ちで見つめ返す。
そこでエルが言葉を続ける。
『だから……一緒にカナンの地にいってくれる?』
『ああ、行こう』
少女の小さな口が決して守られることのない約束の言葉を紡ぐ。
『ホントのホントの約束だよ、ルドガー』
エルはルドガーに左手の小指を差し出す。
それに対してルドガーもエルが何をしたいのかを察して右手の小指をエルの小指に絡ませる。
エルは子供らしくルドガーに大切な約束の結び方を教える。
『パパが言ってた。ホントの約束は目を見てするんだって』
何度も何度も繰り返されてきた言葉はそれが当然のように彼の心に深く刻み込まれる。
“ルドガー”がまた同じように繰り返すために。
『エルとルドガーは、一緒にカナンの地にいきます』
『……ああ』
『約束!』
小さくも大きな約束。それが決して叶うはずがないという事も知らぬままに二人は幸せそうに笑い合う。
世界をいくら壊してもたどり着けるはずがないことも知らぬままに。
どれだけ大切な者を捨てても手に入れられぬとも知らずに。
最後のカナンの道標が存在する世界にて彼は悩んでいた。
世界を救うためには道標が必要不可欠だ。
だが、その道標を手に入れるためには―――
「エルを……犠牲にしなくちゃいけない」
大切なアイボーを犠牲にしなければならないという選択は彼を苦しめた。
仲間達も苦しんだが全員が世界の為と割り切ってエルを犠牲にすることを決めた。
後は彼だけだった。今まで少女ために自身の身を切り裂いたこともある。
雷を怖がる少女の耳を塞いであげたことも。二人の絆は確かな物だった。だが。
――世界は救われる。少女を犠牲にすれば――
ルドガーは三日三晩悩んだ末に選択を下した。
その選択は少
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