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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十八話 敗軍の将は以て勇を言うべからず
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だけだ」

 そう、これは第三軍作戦主任参謀の荻名中佐が立案した作戦であり、第十四聯隊の投入を計画したのも当然、豊久を幼年学校でしごいた荻名中佐である。だが荻名中佐は西原家中枢を担う重臣の一人であるし、血を流した者達から手柄を横取りするほどの愚物でもない。
 そして何よりも参謀として決して無能ではなかった。

「砲兵大隊長殿より、聯隊長殿に伝令!」

「御苦労」
 聯隊長が頷くと伝令将校は背筋を伸ばし報告する。
「砲兵大隊観測班より伝達!<帝国>軍を視認せり!接触まであと小半刻!
敵戦力は事前情報に相違なしの模様とのことです」

「よろしい、所定の計画の通りに進めろと大隊長に伝えてくれ」

「はっ!」
 
「導術!聯隊長より各隊へ!戦闘配置へ移行せよ」
 導術兵の一人が合掌し、意識を集中させる。
「米山、上砂。行くぞ」
本部の新品少尉と北領からの副官が立ち上がった。



 悠然と豊久は眼下に広がる兵共を睥睨する、銃兵達は正方形を連ねて彼らの指揮官の壁となる。
「方陣、方陣、馬鹿の一つ覚えだろうが、これでいくしかないのよな」
 眼下では銃兵三個大隊が中隊ごとに隊列を整えている。整然と連なる正方形が豊久たちを護り、そしてその隙間から平射砲部隊が東方を睨んでいる
 ここまではほぼ龍口湾で迎えた初陣と同じだ――だが大きな違いがある、豊久の手元に剣虎兵はいない。
 
 望遠鏡を取り出し、東に現れた白い幾何学的図形へとむける。頭数自体は〈皇国〉軍が三千半ば、〈帝国〉軍は五千、白色の隊列は黒の正方形の連なりを飲み込もうとするかのように緩やかに、だが整然と形を変えてゆく。

「聯隊長殿、その、危険では」
 上砂少尉が唇を引き結び言った。常に指揮官は身を守らねばならない、ましてや〈帝国〉砲兵が敵ならば尚更である。

「司令だ、司令。聯隊長じゃない、西州の連中も戦が始まろうとする今、俺を見ている。これも後衛戦闘隊司令の役割だ」

 そして――軍楽隊が〈帝国〉軍の常勝を奏で、白衣の精兵達は前進を始めた。そして砲兵達も方陣を粉砕すべく彼らの中隊横列の横を固めて進む。その距離はおおよそ一里半
「上砂、砲兵大隊に伝達、まだ我慢だ、いつでも撃てるように」
一里、〈帝国〉砲兵達は少しずつ角度をかえ、前進を続ける。〈皇国〉軍は沈黙したままだ。

「――頃合いですね」
 幕僚達も既に豊久の周囲を固めている。
 後衛戦闘隊司令は鋭剣を引き抜き、掲げた。上砂導術士が目を閉じ、額の銀盤を煌めかせた。
 半里、鋭剣が振り下ろされる、〈帝国〉砲兵達は砲車にとりつき眼前の厄介な方陣に向けようとし――小規模な火山が噴火した。

平射砲も砲火を放っているがそれだけではなかった、“蛮軍”の方陣が囲む丘から山なりの砲弾
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