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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十八話 敗軍の将は以て勇を言うべからず
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皇紀五百六十八年 七月 二十五日 午後第三刻 龍岡市より西方約三十五里
集成第三軍後衛戦闘隊主力 隊司令 馬堂豊久中佐


内王道本道に面した丘を囲むようには三千を超える〈皇国〉将兵が臨戦態勢をとっている。
 丘の中ほどには〈皇国〉将校達が荷馬車に座りこみ、地図を睨みながら帳面になにやら書きつけ、手持ちの書類をめくりながらぼそぼそと会話をしている。

 その一団から僅かに離れた木陰に草臥れているがいまだ若さを感じさせる顔つきの青年将校が腰かけている。で容赦なく照りつける陽光に向けて紫煙を吹き上げた、煙は流れる事なく漫然と漂い薄れていく。
「本日は晴天にして風弱し……砲兵日和だな」
 つぶやき、ふてぶてしい笑みを浮かべるは集成第三軍後衛戦闘隊司令を押し付けられた馬堂豊久〈皇国〉陸軍中佐である。
「さぁて賽の目は上皇ですら自在ならず、一発当てりゃお慰み、と。博打は嫌いだってのに」
 豊久は立ち上がり、意識してその笑みを張り付けたまま幕僚達の下へとゆったりとした足取りで歩きだした。

 幕僚達が立ち上がろうとするが豊久はそれを手で制する。
「全般状況を」

「はっ!それでは側道の状況から報告します。
側道の騎兵聯隊は偵察部隊を聯隊鉄虎大隊が撃破、前進し主力部隊との交戦に備えています」

「鉄虎大隊の損耗はどうだ」

「皆無です、現在は伏撃に適した要点域に集結しております」

 豊久は主席幕僚の報告に無言でうなずいた。棚沢は優秀な剣虎兵将校だ。あとは彼と幕僚達に任せるしかない。そのために人務に無理を言ったのだ。

「現在我々が布陣している本道においては偵察に出ていた騎兵からの報告によると軽砲を装備した増強猟兵聯隊が先遣隊として迫っております。頭数はおおよそ五千、午後第三刻半までには交戦開始にはいる事を想定しています」
 大辺は主要街道から後方の龍岡市へと指をずらす。
「後方に猟兵旅団を主力とする部隊おおよそ一万半ばが集結しています。現在確認されている戦力は以上です。
総戦力は2万超、重砲隊を龍口湾の戦いで壊滅させられた第三軍にとっては脅威です」

「こちらの増援の様子はどうだ、統制が効かないなどというオチはなかろうな」

「第十一大隊は行軍を進めています。西州銃兵第一〇四大隊も他大隊と同じく配置についています。私も大隊の様子を見てきましたが、士気は悪くありません。あとは――」

「俺の方が把握してる、ってか。あぁそりゃそうだな」
 豊久は大げさに肩を竦め、飄げてみせた。先程少しばかり休憩をとるまで豊久はその増援達を相手にしていたのである。


「これで軍司令部からの支援はそろった。あとは俺達がここで軍主力が亢龍川の渡河を完了するまで敵追撃をどうにかせよ、とわが愛すべき教官からの課題を達成する
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