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菖蒲
9部分:第九章
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遠にですか」
「そうだ」
 相変わらずその顔は憎悪に燃えていた。その顔で笑みを浮かべていた。見ればそれは凄みのある笑みであった。悪鬼の様な。
「永遠にな。愚かな罪の劫罰を与えてくれる」
「わかりました」
「では」
「墓も完全に壊してしまえ」
 去り際に兵士達にこう告げた。
「わかったな」
「はい・・・・・・」
 兵士達はうなだれてそれに頷いた。彼等にしてみれば最早伍子胥の行いは人のそれではなかった。だが彼にとっては当然のことであったのだ。
 彼は江に行き本当に首を放り込んだ。髑髏は忽ちのうちの流れの中に消え去ってしまったのであった。
 こうして楚王は死しても罰を受けた。伍子胥はそれは済んでからようやく落ち着きを取り戻して川辺を眺めたのであった。するとこそには。
 菖蒲があった。川辺に咲き誇っている。その花を見やる。
「菖蒲か」
 見ていると彼のことを思い出した。専緒のことを。
「思えば貴殿のおかげだな」
 菖蒲に対して声をかける。専緒に重ねて。
「貴殿のおかげで我が君は王になることができて。そして」
 自らも復讐を果たせた。そのことを想っていたのだ。
「全ては貴殿のおかげだ。何もかも」
 礼を言う。今その有り難さで心が満ちていた。
「そして。済まぬ」
 次に謝罪した。
「貴殿の様な者を死なせて。何と言えばいいかわからぬ」
 だが礼を述べたのだった。それでも。
「だからこそ。安らかに眠れ。家族のことは気にせずにな」
 そこまで言って完全に沈黙した。そうして菖蒲を見続けた。
 史記等多くの本に専緒の名は残っている。彼が暗殺の時に使った剣は魚腸という名になり後世に伝えられた。だが彼が菖蒲を贈られたことにより運命が決したことと最期に菖蒲に彩られたことは知られていない。だが今も菖蒲は咲き誇っている。専緒の様に静かに。そして美しく咲いている。


菖蒲   完


                 2007・9・30

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