3部分:第三章
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「子供ですな」
だが伍子胥はそこに別のものを見ていた。
「やはり」
「どうかしたのか?」
「我が君」
あらためて横にいる光に対して言うのだった。
「彼の協力を得るまたとない方法を見出しました」
「何と、ではそれは」
「全ては私にお任せ下さい」
鋭い目に強い光を帯びていた。何かを為す目であった。
「宜しいでしょうか」
「うむ、わかった」
全幅の信頼を置いている伍子胥である。彼としては断る理由はなかった。
「では宜しく頼むぞ」
「はっ」
主の言葉に頷く。伍子胥は暫く経ってその策を実行に移したのであった。
専緒が光の贈り物を拒絶してから数日後。彼が漁から帰ってみると家の様子がおかしかった。何か子供達がやけにはしゃいでいるのだ。
「何かあったのか?」
「美味しい果物を貰ったの」
子供達は口々に彼に答える。
「果物をか?」
「うん、これ」
彼等が父に差し出してきたのはそれこそ貴族しか食べられないような珍しい高価な果物であった。無論専緒もそんなものは食べたことがない。
「これとね」
「まだあるのか」
「これも貰ったの」
今度は娘達が差し出してきた。それは菖蒲であった。青い菖蒲であった。
「花か」
「うん。この前来られた方から」
「この前の」
専緒は子供達のその言葉から贈ってきたのが誰なのかすぐにわかった。
「そうか、頂いたのだな」
「頂いて悪かったの?」
「いや」
子供達のその言葉には首を横に振る、その表情を見せずに。
「構わない。それよりも美味しいか?」
「うん」
無邪気に父親に答える。そうしてただひたすら果物を食べ花を愛でていた。
「とても。こんなに美味しいのはじめて」
「そうか、それはよかったな」
専緒は子供達のそんな言葉を聞いて笑みを浮かべた。だがその笑みは何処か強張り覚悟が感じられるものであった。
「美味しいものを食べられて。その恩を忘れるんじゃないぞ」
「うん、お父さん」
「わかってるよ」
やはり無邪気に子供達に答える。彼等はわかっていなかった。父の顔に見られる覚悟を。彼は子供達の果物と花を見て既に意を決していたのであった。
それからは彼は光や伍子胥からの贈り物を素直に受け取るようになった。何も語らずに受け取る。それにより彼の家は見る間に裕福になり年老いた母も妻子も笑顔になっていたが彼だけは笑顔にはならなかった。まるでそこに運命があるように。笑いはしなかったのだった。
歳月が経った。呉王は弟達に楚を攻めさせたが忽ちのうちに窮地に陥った。軍が退路を断たれ包囲されたのだ。この上ない危機であった。
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