2部分:第二章
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はい、その老人はおそらく木です」
こう秀吉に述べた。
「殿下が堺より移したあの木なのでございます」
「あの木か」
「そうです。だからこそ帰りたいと申すのでしょう」
三成は静かに秀吉に述べた。
「堺に」
「左様か」
「帰りたいと言っている者に無理強いはなりますまい」
三成はまた述べた。
「ですからここは」
「そうじゃな」
そして秀吉もそれに頷いた。彼とて決して無法な男ではない。情も知っている。だからこそ今三成の言葉に頷いたのである。
「それではそのようにしよう」
「はい。それが宜しいかと」
「わしとて木は楽しく見ておきたいものじゃ」
老木を見る。その秀吉の目は限りなく優しいものになっていた。
「それに悲しむ姿は見るもの聞くのも忍びない。ましてそれがわしが原因ならば」
「それでこそ殿下です」
三成はここで秀吉を褒め称えた。
「天下人であらせられます」
「そうじゃな。しかし天下人というのは案外不自由じゃ」
秀吉はふと苦笑いを浮かべた。
「こういうことでも気を使わなければならないのじゃからな。しかし」
「しかし?」
「それでも悲しむ顔よりは笑顔の方が見たいものじゃな」
そう言って木を見るのであった。その後間も無く老木は元の堺に戻された。それから老人が出るという話は消えた。秀吉は堺でその老木を見ることにした。これもまた天下人の逸話の一つである。
蘇鉄の木 完
2007・11・21
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