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白梅
6部分:第六章
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第六章

「君は智伯に仕える前にも人に仕えていたな」
「はい」
 彼のその問いにこくりと頷いてみせた。
「その通りです」
「それでだ」
 それであらためてまた豫譲に問うた。
「二人いたが彼等は智伯により滅ぼされた」
「その通りです」
 豫譲もまたそのことを否定しなかった。その通りだったのだ。彼はかつての主を滅ぼした者に仕えその仇を討とうとしているのである。思えば妙な話だ。 
「それなのに君は彼等の仇を討とうとせず仇である筈の智伯の仇を討とうとする。それは何故だ」
「前に申し上げた筈です」
 豫譲の返事は変わらなかった。そう問われても。
「士は己を知る者の為に生き、そして死ぬものだからと」
「だからだというのか」
「そうです」
 やはりその答えは変わらなかった。
「私は確かに彼等に仕えました」
「うむ」
「ですが彼等は私を有象無象に扱いました」
「有象無象にか」
「そうです」
 答えは静かだった。だが確かなものであった。
「だから私も彼等に有象無象に扱います。ですが」
「智伯は違うというのだな」
「これがその証です」
 そう言ってあの梅を出してきた。白い梅の花を。枝に白い花が咲き誇っていた。
「最後にこの花を下さいました。それに誓ってのことです」
「白梅にか」
「私もまたこの花の様にありたいのです」
 いとしげに花を見ながら趙に答えた。
「二心のない心で」
「智伯は君にそうさせたか」
「士として扱って下さいました」
 このこともまた言う。
「だからこそです」
「豫譲よ」
 趙はここまで話を聞いたうえでまた彼に声をかけたのだった。
「何でしょうか」
「君はもう充分に彼に報いた」
「私はそうは思っていませんが」
「それでもだ」
 ここでは豫譲の言葉を退けた。そして首を横に振り嘆息しながら述べるのだった。
「それに私は君を一度助けた」
「はい」
「二度目はない。それはわかるな」
「それもまた承知しております」
 豫譲は彼の言葉に頭を垂れて答えた。
「既に一度この命を助けて頂いておりますから」
「では。覚悟しているのだな」
「覚悟がなくてどうして仇討ちなぞできましょう」
 頭を垂れたまま述べる。
「わかった。では」
「ですが」
 しかし彼はここで頭を上げて趙に言うのだった。
「どうした?」
「最後に願いがあります」
 趙に対して述べてきた。
「願いとな」
「宜しければ貴方の服を一つ頂きたい」
 こう趙に言うのである。彼を見据えながら。
「服をか」
「はい。それを斬り仇討ちの思いを果たしたいのです。それができればもう恨みはありません」
「わかった」
 趙だけではなく周りの者達も今の豫譲の言葉に対して何も言わなかった。彼の心を聞いて打たれて
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