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白梅
4部分:第四章
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と。
「間違いない。君は」
「誰だと仰るのですか?」
「誤魔化すというのか?」
 その物乞いに対して顔を顰めさせて問うた。
「互いに知った中だというのに」
「何のことだか」
「知らぬというのか。まあよい」
 それはよいとした。だがそれでも彼は言うのだった。
「これは独り言だが」
「独り言ですか」
「別に聞かなくてもよい」
 一応はこう言う。
「しかし言おう。優れた剣の腕と志を持った者がいる」
 やはりあえて誰かとは言わない。だが今前にいる物乞いをじっと見据えての言葉だった。
「彼は何故目指す者に仕えないのか。若し仕えていれば」
「仕えていれば」
「その者をより容易に討ち果たすことができるというのにな。何故だ」
「それは異心を抱いて仕えるということ」
 物乞いは答えた。その潰れてしまった声で。
「その者はそれをしようとは思っていないのでしょう」
「思っていないのか」
「おそらくは」
 こう語るのだった。
「彼は己のしようとしていることがどれだけ困難なことか承知しているものかと」
「では何故」
「それでも志を果たしたいものであるのかと」
 続いての言葉だった。
「そして」
「そして」
「後の世の人に二心を抱かぬことはどの様なものか見せたいのかと考えます」
「それでもするのか」
「おそらくは」
 目を伏せて徐に答えた。
「わからぬ。そこまでして」
「士は己を知る者の為に死ぬ」
 そっと述べる。その時粗末な泥や汗や埃で汚れた服の下から白い花がちらりと見えた。

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