暁 〜小説投稿サイト〜
左慈
2部分:第二章
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 劉表はあらためて左慈に対して顔を向けた。
「それでは術を拝見させてもらいましょうか」
「わかりました」
 左慈はにこりと笑って頷いた。そして劉表に問うた。
「どの様な術が宜しいですかな」
「そうですな」
 彼は問われて考え込んだ。
「丁度お昼時ですし」
「はい」
「食事を頂きたいですな。ただし」
 ここで劉表は彼を試すことにした。
「ここにいる全ての者の食事をです」
「ふむ。一千はおられるようですな」
「はい。できますかな。貴方が術を使われるのならば容易いことだと思いますが」
「畏まりました」
 左慈はそう答えると杖を上に掲げて振りかざした。そしてそこから一斗の樽と一束の干し肉を出した。干し肉は皿の上に置かれていた。
「これで如何でしょうか」
「それだけですか」
「これで充分ですが。何でしたら貴方からお取りになって下さい」
「わかりました」
 劉表はそれを受けて前に出ようとした。だがそれを蔡瑁が止めた。
「我が君、お待ち下さい」
「どうしたのじゃ」
「危ないかも知れませぬ。ここはまず私が」
 彼はここで毒見役を買って出た。そして最初に肉と酒を取った。それを口に含んだ。
「どうじゃ」
「はい」
 彼は肉と酒を一口ずつ飲み込んでから答えた。
「美味いです。問題はないかと」
「そうか。ならば」
 それを受けて劉表も肉と酒を手にした。そしてそれを口にした。食べてみると蔡瑁の言う通り美味かった。そして見れば肉も酒も全く減ってはいなかった。
「減ってはおらんな」
「はい」
 左慈はそれに答えた。
「千人分どころか幾らでもありますぞ、ささ」
 彼はここで兵士達にも肉と酒を勧めた。
「どんどん召し上がられよ。幾らでもありますからな」
「はい」
「喜んで」
 兵士達も喜んで肉と酒を受け取った。一千人の兵士達が肉と酒を受け取ってもやはり全く減ってはいなかった。彼等はお替りをしたがそれでも減らない。そして彼等は肉と酒を心ゆくまで堪能した。劉表はそれを見て考えを決めた。彼は左慈に対して言った。
「左慈殿」
「はい」
「これからどうなさるおつもりですか」
「これからですか」
 彼はにこやかに笑ってそれに応えた。
「はい。荊州に入られますか」
「そうですな」
 問われた彼は考え込んだ。
「それではご好意に甘えまして」
「そうぞ」
 こうして彼は安全に荊州に入ることができた。そこに暫く滞在すると彼は今度は北に向かうこととなった。そこには漢の都許晶があり、この国で第一の実力者曹操がいた。彼は皇帝を立てて自らは天下を掌中に収めんとしていたのだ。人は彼を乱世の姦雄と呼んでいた。政治にも軍事にも長けた天才的な人物であった。左慈は今彼の勢力圏に入ったのであった。彼はこの時魏公となっていた。
 
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ