第十夜「祈りの対価」
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「ぅ…う〜ん…。」
良かった、生きていると神父は思ったが、「やっぱり父さんじゃないや…。」と少年の一言で、この子は捨てられたのだ悟り、すぐに宿舎へ運んで行った。
神父は温かいミルクとパンを与えたが、少年は全く手を付ける様子もなく、無表情に正面を虚ろな瞳で見つめるだけだった。
―この子はどれくらい待っていたのだろう…?―
それを思うと、神父の心は暗く沈んだ。
レオニー神父自身も捨て子だったのだ。
自身と重ね合わせてはならない…そう思っても、目の前のこの少年が哀れでならず、不意に抱きしめていた。
「あなたは私の弟です!あなたは神の子供です!」
少年はこの神父の温もりで、やっと自分が生きていることを知ったのだと、後になって語っていた。
‡ ‡ ‡
「アレ〜ン、いるかぁ〜?」
とある夏先の午後。宿舎の中庭に、間の抜けた声が響いた。
「ジャック!」
アレンはその顔を見るなり、急いで庭先に出た。
ジャックはアレンがこの宿舎に入った時に、たまたま母親と一緒に訪れていたのだ。
生きる希望を失いかけていたアレンを、ジャックは励まし続けていた。そうやっていくうちに、アレンは心を開くようになり、今では無二の親友となっているのだ。
「どうしたのジャック?きみ、帝都へ行ってたんじゃなかったの?」
ジャックは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「ああ、行ってきたさ。っけどよぅ、ひっでぇ有様だったぜ?都中から物資が徴収されてんもんだから、な〜んもねぇんだもんよ?田舎ん方はまだまともだけどなぁ…。いつ帝都みたいんなるか、分っかんねぇぜ?」
「その話を聞かせにきたの?」
アレンはジトッとジャックを見据えた。だが、当のジャックは陽気な声で言った。
「わりぃわりぃ、別にこんな辛気臭ぇ話に来たんじゃねぇんだ。なぁアレン、今晩時間空けられっか?」
「うん、祈りの時間が終われば大丈夫だよ。何かあるの?」
アレンは不思議そうにジャックへと返した。
「ああ、何かあるから言ってんだろ?オレん家来いよ。」
「は?きみの家に行くの?いゃ、別に嫌って訳じゃなくてね、喜んで伺うよ。」
ジャックはこの言葉にニヤッと笑って、白い歯を見せた。
そこへレオニー神父が通りかかった。
「やぁ、ジャック!帰ってたのかい?たまには教会の方へも顔を見せてほしいんだけどねぇ?」
と、ジャックの後方より忍び寄り、ガッシリと肩を掴んでそう告げた。
ジャックはビクッとして固まった。彼はレオニー神父が苦手なのだ
「や、やぁ…こんにちわぁ…神父さまぁ…」
ジャックは冷や汗をかきながら、ぎこちなく後ろを振り返った。こうガッチリと肩を掴まれていては、逃げるに逃げられない。
「レオニー神父、出掛けられてたんですか
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