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真田十勇士
巻ノ四 海野六郎その九
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「そこまでのものを感じておる」
「そうか、わかった」
 牛鬼はここまで聞いてだった、納得した顔になった。
 そしてだ、海野にこう返した。
「聞きたいことは全て聞いた、ではな」
「では、とは」
「これで帰るわ」
 そうすると言うのだった。
「ここでの仕事は終わっておって余興で入っておったしな」
「ですか」
「そうじゃ、それではな」
「はい、それでは」
 こうしたことを話してだ、牛鬼は。
 海野の褌から両手を離してだ、行司に言ったのだった。
「それがし急に腰が痛くなったので」
「降りられるというのか」
「はい」 
 そうだと答えたのだった。
「そうさせて頂きます」
「無理はせぬと」
「腰が痛うなっては後で相撲が出来ませぬので」
 それ故にというのだ。
「これで」
「左様か、あいわかった」
 行司はそれならと頷いてだった、そうして。
 牛鬼の負けを認めた、そして海野の方に軍配を上げたのだった。
 この勝負が終わったのと見てだ、由利は穴山に言った。
「あの者、降りたな」
「勝負自体をな」
「別に六郎を倒したかったのではないのか」
「違う様じゃな」
 そうではなく、というのだ。
「どうやら」
「腰を痛めたと言っておるが」
「違うな」
 このことも言うのだった。
「あれは」
「うむ、あえて下がったな」
「どういうつもりじゃ」
「さてな、しかしあの者身体が大きいだけではない」
「意外と頭も回るな」
「そうじゃな」
 このことも気付いた彼等だった。
「大男総身というのは嘘じゃしな」
「そこは人によるぞ」
「小男の総身に知恵も知れたものともいう」
「そうじゃな」 
 こうしたことを話してだった、二人はそのうえでそれぞれの試合に向かうのだった。穴山の相手は幸村だったが。 
 幸村は笑ってだ、穴山に言った。
「小助、思う存分やろうぞ」
「はい、こうしたことは気兼ねをしたら」
「何にもならぬ」
 幸村は楽しげに笑って穴山に応えた。
「だからな」
「お互いに何の気兼ねもなく」
「全力でぶつかり楽しもうぞ」
「相撲を」
 こう話してだった、そのうえで。
 幸村と穴山はぶつかった、お互いに力ではなく技を使った勝負であり掴み合うものではなかった。だが穴山が前に出てだった。
 幸村の褌を掴もうとしたところでだ、幸村はというと。
 その前からの動きを右にかわしてからだ、返す刀の要領で。
 穴山の左肩、そして腰にだった。張り手を両手で繰り出して。
 それで穴山のバランスを崩してさらに足元を払って。これでだった。
 穴山をこかせた、それで勝負ありだった。
 勝負の後でだ、穴山は幸村に言った。
「いや、かわされるとは」
「思わなかったか」
「はい、まさかと思いましたが
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