暁 〜小説投稿サイト〜
幻影想夜
第三夜「歩道橋幻影」
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話

 すると…そこには…

「将之…!?」

 彼は車線の真ん中に立っていた…。会ったときと全く同じ姿で…笑っていた。
「どうして…!?何で言ってくれなかったんだよ…!」
 僕は泣いていた。彼の優しさが嬉しくて…聞いてもらうばかりで…。
「僕はきみに、まだなにも返してないよ!今逝かなくたっていいだろ?僕はきみに救われたんだ!今度は僕の番じゃないか!」
 誰にも見えるはずの無い彼。周囲の人間は、怪訝な顔をしていることだろう。僕が…ただ歩道橋から叫んでるようにしか見えないだろうからな。
 僕の目からは涙が止め処なく流れていた。
 彼は手を振ってる…僕に向かって…
「……。」
 雑音に紛れて、聞き取ることが出来ない。
「なに?なにが言いたいの?!」
 僕は必死で彼の口を読みとろうとした。

「あ・り・が・と・う…?」

 そう読み取れた…けれど、続く言葉に…僕は…

「さ・よ・な・ら…!」

 そう読み取った直後、彼の…将之の姿が少しずつ消え始めた…。
 嫌だ、こんな別れ方!僕の心を救ってくれた人が…消えて行く…。
「嫌だぁぁぁ…!!」
 でも彼は、最後のその時まで笑ってた。天へ溶けて逝くその時まで…。

 まるで淡雪の如く…彼は去った…。満面の笑みを湛えて…。
「ありがとうって…僕のセリフじゃないか…」
 泣きながら笑って…その場に座り込んだ。

「あぁ、空がキレイだ…。」


   *  *  * 


 あれから数年の月日が流れた。僕は地元の会社員となって、懸命に働いてる。それなりに忙しい毎日を送れている。
 それでも彼の命日には、毎年あの歩道橋に花束と缶コーヒーを供えてくるんだ。
 そして…今年もまた、この歩道橋にやってきた。
「やあ、来たよ。」
 そう言って花束と缶コーヒーを置き、線香に火を点けた。となりには彼の両親が供えたものが置いてある。
「将之、きみの両親に会ったよ。昨日ここに来てるのを見てね…。話し掛けちゃったよ。きみも見てただろ?あのことを話したんだ…。あの時の僕みたいに、泣きながら笑っていたよ…。きみは愛されてるよ…今も…。」

 透るような空の蒼。その中で、彼が笑ってるような気がした。
「将之、僕は生きてるよ。今、この場所で…。」
 彼と出会った一瞬を思い出し、この空で彼がずっと笑ってられるように…

 祈った…。



       end...



[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ