第三夜「歩道橋幻影」
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すると…そこには…
「将之…!?」
彼は車線の真ん中に立っていた…。会ったときと全く同じ姿で…笑っていた。
「どうして…!?何で言ってくれなかったんだよ…!」
僕は泣いていた。彼の優しさが嬉しくて…聞いてもらうばかりで…。
「僕はきみに、まだなにも返してないよ!今逝かなくたっていいだろ?僕はきみに救われたんだ!今度は僕の番じゃないか!」
誰にも見えるはずの無い彼。周囲の人間は、怪訝な顔をしていることだろう。僕が…ただ歩道橋から叫んでるようにしか見えないだろうからな。
僕の目からは涙が止め処なく流れていた。
彼は手を振ってる…僕に向かって…
「……。」
雑音に紛れて、聞き取ることが出来ない。
「なに?なにが言いたいの?!」
僕は必死で彼の口を読みとろうとした。
「あ・り・が・と・う…?」
そう読み取れた…けれど、続く言葉に…僕は…
「さ・よ・な・ら…!」
そう読み取った直後、彼の…将之の姿が少しずつ消え始めた…。
嫌だ、こんな別れ方!僕の心を救ってくれた人が…消えて行く…。
「嫌だぁぁぁ…!!」
でも彼は、最後のその時まで笑ってた。天へ溶けて逝くその時まで…。
まるで淡雪の如く…彼は去った…。満面の笑みを湛えて…。
「ありがとうって…僕のセリフじゃないか…」
泣きながら笑って…その場に座り込んだ。
「あぁ、空がキレイだ…。」
* * *
あれから数年の月日が流れた。僕は地元の会社員となって、懸命に働いてる。それなりに忙しい毎日を送れている。
それでも彼の命日には、毎年あの歩道橋に花束と缶コーヒーを供えてくるんだ。
そして…今年もまた、この歩道橋にやってきた。
「やあ、来たよ。」
そう言って花束と缶コーヒーを置き、線香に火を点けた。となりには彼の両親が供えたものが置いてある。
「将之、きみの両親に会ったよ。昨日ここに来てるのを見てね…。話し掛けちゃったよ。きみも見てただろ?あのことを話したんだ…。あの時の僕みたいに、泣きながら笑っていたよ…。きみは愛されてるよ…今も…。」
透るような空の蒼。その中で、彼が笑ってるような気がした。
「将之、僕は生きてるよ。今、この場所で…。」
彼と出会った一瞬を思い出し、この空で彼がずっと笑ってられるように…
祈った…。
end...
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