第一夜「想い出の風」
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その時、ふっと立ち止まった。
何もない風のそよぐ並木道。そこに立ち並ぶ枯葉も疎らな桜の樹に、そっと目を移す。
「誰か呼んだかな…?」
すぐ後ろを振り返っても誰もいない。ただ、そよぐ風が落ち葉を舞い上げているだけだ…。
「気のせい…だよな…?」
僕はそう呟き、それを気にせず歩き出した。
しかし、何となく気になって空を見上げた。
今日は快晴だ。澄んだ青空に雀が数羽遊んでる。
「・・・・・。」
その青空は高く、どこまでも続いてく。白い雲が漂い、それがまた空の高さを強調していた。
僕は何とはなしに歩みを止め、その青い空を眺めていた。
どことなく物悲しい、夕刻も近い空の下。不意に田舎で見ていた風景が胸を過った…。
「もうどのくらい帰ってなかったかなぁ…。」
溜め息混じりに言葉が零れ落ちた。あの懐かしい風景は、きっと今も変わることなくあるのだろう。
あの頬に伝うやさしい風も…。
「…風…?」
心の奥にその「名」が浮かんだ。
そう…今日の風は、あの田舎の風によく似ている。
優しく包み込むような風…。いつの頃からか忘れてしまっていた風が、今の僕に語りかけてきてくれてると確信した。
「そうか、君なのか…。」
どこからともなく吹く風に、僕は話しかけた。
― やっと…思い出してくれたのね。―
幼い頃に聞いた優しい声が、僕の胸に響いてきた。あの頃と変わらない暖かく、小さく、それでいて力強い声が…。
もう何年も聞いていなかった。苦しい時や悲しい時、いつも傍にいてくれた“風”の懐かしい声…。
― 私はいつも、あなたを傍でみていたわ。大切なあなたのことをね。でも私、もう行かなきゃならないの。それでね、お別れを言いに来たの…。―
「えっ…!?」
その言葉に、僕はその意味が分からなかった。“風"が別れを告げに来るなんて…。
「ちょっと待って…、何で?君はいつも僕を支えてくれた。どうして今頃になって…。」
そう言ってる僕の頬に伝う風は、心なしか力無かった。
― 私たちは定められた歳月を経ると、また別の場所へ行かなきゃならいの。あなた達一人一人に私たちは語りかけ、励ましているけれど、その人達がもう私たちを必要としなくなったら、今度は別の誰かを探さなくちゃならないのよ…。―
僕は唖然とした。そして、遠い記憶の片隅で、弱々しく泣いている自分を思い出した。
だから、僕は様々な感情を胸に“風"へと言ったんだ。
「出来ることなら行かないでほしい…。だって、僕はまだ君に何も返せてないじゃないか…。」
多くの思い出が、心の底から湧きだしてくる。
うつろう四季の中、風は変わらずに吹いているのに、自分の知る“風”がいなくなるなんて…!
僕は…
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