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珈琲
2部分:第二章
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第二章

「その言葉にな」
「じゃあ明日にでも行くかい」
「おうよ」
 磯八のその言葉に頷いた。
「行くぜ。それならな」
「これで決まりだな。それでな」
「金はどうなんだい?」
「それはそんなにかからないらしい」
「へえ、そりゃいいな」
「向こうでは茶なんだぜ」 
 そのことをまた言う磯八だった。
「そんなにかかるわけないだろ」
「そういえばそうか」
 言われて納得する留吉だった。
「それもな」
「そうだよ。だったらいいよな」
「ああ」
 また磯八の言葉に頷いた。
「明日だな。じゃあ仕事があがったら二人でな」
「行くぜ」
 こんな話をしてから次の日その珈琲を飲みに行くのだった。場所は日本橋の辺りだった。二人はそこに行くと少し顔を顰めさせることになった。何と洋服を着た人間や外国人も見るからだ。建物も随分と変わろうとしていた。
「この前こんなものあったかい?」
「いや、なかったよ」
 まだ江戸にいるという意識の二人は西洋風の立派な建物を見上げてまず驚いた。
「しかも洋服着ている人間も多いし」
「日本橋も変わったもんだよ」
「いや、全く」
 そう言い合っている二人の横を人力車が通り抜ける。それもまた明治になって出て来たものだった。とにかくもう江戸時代でなくなっていたのだった。
 だが二人はまだそんな意識がないままにその珈琲の店に向かう。磯八がまだ日本の建物がよく残っている場所を指差して留吉に言うのであった。
「ここだよ」
「ここかい」
「そうさ、ここさ」
「見たところ変わらねえな」
 留吉の最初の感想はこうであった。昨日二人がいた茶屋と何ら変わるところのない瓦の屋根におおっぴらに開いた木の店だった。しかも畳である。
「普通の茶屋とな」
「ところが。それが違うんだよ」
 磯八は面白そうに笑って留吉に告げるのだった。
「これがな」
「要するに茶は出ないってわけか」
「そうさ。饅頭もな」
「饅頭もねえのか?」
「かわりにクッキィっていうのが出るらしい」
「クッキィ!?」
 クッキーと聞いてもわからず顔を顰めさせる留吉であった。
「何だよ、そりゃ」
「かりんとうみたいなもんらしいぜ」
「何だ、かりんとうかよ」
 留吉はそれを聞いてまずは安心した顔になったのだった。
「それならな」
「安心したかい?」
「何てことはないな」
 笑ってその心境を述べたのだった。
「それだったらな」
「じゃあ入るよな」
「それは最初から決めてるさ」
 江戸っ子のその威勢を見せての言葉である。
「だからだよ。行くぜ」
「ああ、合点だ」
 磯八も彼の威勢に合わせて店に入った。そうしてすぐに和服の娘に対してそれを注文するのだった。
「その珈琲ってのをくれよ」
「珈琲ですね」

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