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珠瀬鎮守府
木曾ノ章
その8
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のようないつでも撤退できる状態での生命を賭した戦いではなく、逃げることは許されない、勝たなければ自身はおろか無関係な人間すら殺される戦闘が、私達を待っているのだ。
「了解」
 耳を打ったその言葉は、響の声だった。それが聞こえると同時に、私の足の震えは止まった。彼女は、受け入れたのだ。本当の意味で、殺す殺されるの戦闘が行われる可能性を。
 続いて、他の仲間からの無線が入る。誰しもが、同じ単語を連ねた。「了解」と。怯えては居られなかった。彼女たちが覚悟を決めたのに、私が怯えていてどうする。
 私が仲間を連れて、その場を離れようとしたその時、最上からの通信が入った。
「偵察部隊より入電。乙丙艦隊は再度二手に別れ、乙は引き続き当鎮守府に接近中。丙は伊隅鎮守府へと転進した模様。現在伊隅鎮守府の防衛機能は殆ど活動していない。よって私達の中の一部を丙へと向かわせ時間稼ぎをする」
「こちら第二艦隊木曾。質問がある。第四艦隊はどうした」
「既に伊隅を離れてる。丙が伊隅へと向かった事でまた引き返したが間に合いそうにない。よって足の早い私達巡洋艦及び駆逐艦が時間稼ぎに向かう」
「第二艦隊、当作戦参加を希望する」
 私の発言を聞いて、第二艦隊の面子の顔は強張った。同時に、側にいる第三艦隊旗艦の吹雪は、隠しているだろうが僅かながらに安堵の顔を見せた。
「理由は?」
「三つある。一つ、私達が外洋に近い配備の事。二つ、魚雷が無いため此処での作戦に適さない。三つ、実戦経験が豊富である事」
「……了承する。第二艦隊は丙へと急行、時間稼ぎを行って。死者が出そうになるか、第四艦隊到着の目処が立ち次第撤退するように」
 了解と返して無線を切り替える。
「聞いていた通り、俺達は丙艦隊へと向かう」
 了解の返答を聞きながら、私は最上へ丙の予測進路を尋ねた。




 夜の海原を駆けて二十三時を越えた頃、それは私達の前に現れた。同時に、私達の誰しもが言葉を失った。死という明確な未来がそこには見えたから。
「なんだよ、あれ」
 無線に流れた天龍の声に返す言葉を持つものはいない。私も分からないし、きっと誰もが知らなかった。いや、噂には聞いたことがある。戦艦とも空母とも違う大型深海棲鬼がいるという事を。
「姫……」
 誰かがぽつりと呟いた。確か、噂ではそんなものだったはずだ。けど所詮は噂だと思っていた。だが、事実見たことのないそれは戦艦や空母より強固たる装備をつけていた。姫は、実在していたのだ。
「木曾、撤退しよう」
 響の提案は尤もだった。こちらは全艦消灯し丙艦隊の横手から出現した。まだ敵は私達の事に気づいていない。逃げるなら今しかなかった。
「姫がいるなんて想定外。今私達が出て行ったところで時間稼ぎ何てできない」
 正しくその通りだろう。私達と敵艦隊
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