第五章
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ここでだ、夏男は老人に笑ってこう言った。
「ちょっと散髪してくれますか?」
「パーマですか」
「これは元々ですけれど」
その髪の質はというのだ。
「お袋の生まれがアメリカで」
「黒人の人ですか」
「それでこの顔で肌なんです」
アフリカ系の血が強く出たそれだというのだ。
「それで髪を」
「わかりました、ほな今から」
「ご老人がしてくれますか?」
「いやいや、もうわしは手が弱ってまして」
老人は散髪については申し訳なさそうに笑って答えた。
「それでなんですわ」
「鋏がですか」
「使えなくなってますので」
「だからですか」
「隠居してますさかい」
「じゃあ」
「娘夫婦がしてますさかい」
それでというのだ。
「二人にお願いしますわ」
「わかりました、じゃあ」
「ほなそういうことで」
老人は夏男の背中をその小さな手で押して店の中に入ってもらった、そしてだった。
老人の店で散髪をした、そして次の日整えた髪でクラスメイト達にこう言った。
「人間ってやっぱりな」
「おいおい、どうしたんだよ」
「散髪してきたのはわかるけれどな」
「昨日中華街に行ったんだよな」
「それでその爺さんと会ったんだよな」
「会ったよ、それでな」
自分の席に座りつつだ、薊は答えた。
「凄いこと教えてもらったよ」
「何だよ、その凄いことって」
「一体」
「身体の力を抜いて柔らかくしてな」
夏男は仲間達にその老人と手合わせをしてわかったことをそのまま話した。
「相手の目を見ることだよ」
「それがか」
「その人から教えてもらったことか」
「そうだよ、だから八十を越えてもな」
それだけの高齢になってもというのだ。
「強いんだよ」
「へえ、あの爺さん実際に強かったのか」
「そうだったんだな」
「ご本人は否定されてたけれどな」
それでもだというのだ。
「強かったぜ」
「お年寄りでもか」
「八十越えててもか」
「さっき言ったことでか」
「強いのか」
「人間あれだよ」
こうも言う夏男だった。
「力やスピードだけじゃないんだよ」
「そういうものでもか」
「強くなれるんだな」
「そうだな、そのことがわかったよ」
老人と手合わせをしてというのだ。
「いい勉強になったぜ、じゃあ俺もな」
「ボクシングでか」
「そうしたことをか」
「身に着けるか。まあボクシングはどうしても身体の動きだけれどな」
「まあフォアマンは四十過ぎてもやってたけれどな」
「ああいう風にやってみるか?」
「ああ、フォアマンがいたな」
夏男は言われて彼のことを思い出した、四十を過ぎて現役に復活して試合をした彼のことをだ。
「ボクシングも若くなくても出来るか」
「例え現役でなくてもな」
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