第一章
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雷門にて
大阪生まれの伊藤左千夫は東京のことを聞いてだ、開口一番東京の話をした渡辺真矢にこう言葉を返した。
「わし東京嫌いや」
「絶対そう言うと思ったわ」
真矢もこう左千夫に返す、左千夫の丸い目とややとんがった唇を見つつ。髪型は黒くブローされている。三十代後半の次第に加齢臭が感じられる雰囲気だ。真矢も同じ三十代後半で彼は髪の毛がそろそろきていて眼鏡が似合っている。
「自分大阪人やさかいな、生粋の」
「それ自分もやろ」
左千夫もこう真矢に返す。
「大阪生まれの大阪育ちやろ」
「それで今も大阪におる」
「一緒やろが」
「そうやな」
「まあとにかくや」
また言う左千夫だった。
「わし東京嫌いや」
「大阪人らしい言葉やな」
「人情はないし環状線ややこしいし飯はまずいし野球は巨人や」
大阪人が東京に言うことを言い揃えるのだった。
「うどんなんか食えるか」
「墨汁みたいなつゆやな」
「しかも寒いし」
これはからっ風のせいだ。
「何もええとこないわ」
「そやな、けどな」
「けど?」
「わしと自分で今度東京に出張することになったで」
真矢はここでこう言ったのだった。
「今度な」
「えっ、出張かいな」
「そや、そうなったで」
「また急に決まったな」
「東京支社の方にな」
「いらん話やな、それは」
真矢にそう言われてだ、左千夫はこう返した。
「あんなとこいらんわ」
「そやけどもう決まったからな」
「行くしかないか」
「わしも東京嫌いやけどな」
真矢もと言うのだ、やはりこの辺りは彼も大阪人だ。100
だがそれでもだ、彼はこう言った。
「けどな」
「それでもやな」
「仕事や」
それで、というのだ。
「仕方ないやろ」
「東京行くのもか」
「そういうこっちゃ。お互い我慢するで」
「大阪におったらもう離れられんけどな」
大阪の魅力に魅了されてだ。
「それで東京なんかな」
「一生あそこに住むわけやないで」
「そんなん絶対に断るわ」
左千夫はアホ言え、という口調で言い返した。
「あんなとこ一生いてられるか」
「ホンマ東京嫌いやねんな」
「学生の時一回行って飯はまずいし観るとこないしで嫌いになったわ」
「元から嫌いでもかいな」
「そうなったわ」
「それはまた筋金入りやな」
「二度と行きたくない思うてたけれど」
しかしそれが、なのだった。
「しゃあないな」
「仕事やからな」
「じゃあ行こうか」
「俺も一緒やさかいな」
「何や、男二人連れかいな」
「あはは、これ以上はない位嫌やろ」
「ほんま最悪やな」
左千夫は笑って真矢に返した、そして実際にだった。
二人で東京に出張に行った、
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