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すれ違い
9部分:第九章
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れでも。妾なら」
「諦めるというのだな」
「人のものに手を出すのは道理に外れている」
「それが道か」
「道理を外れては何にもならないからな」
「だから去るのか」
「そうだ。これでな」
 踵を返したままそのまま帰る。
「帰るぞ」
「わかった。それではな」
「帰れば皆いるかな」
 ふと達哉に問うてきた。
「それはどうかな」
「何なら声をかけるか」
「そうだな。頼む」
 こう達哉に告げた。
「それではな」
「わかった」
 こうして二人はそのまま下宿に戻りそこに皆を集めた。そうしてその日幸次郎はとことんまで飲んだ。次の日起きると後には皆二日酔いで倒れていた。
「おい、浜崎君」
「ああ、林君か」
「学校の時間だぞ」
 こう彼に声をかける。
「学校の時間だ。どうする?」
「済まない」
 青い顔で畳の上に倒れ伏しながら答える達哉だった。
「今日は駄目だ」
「駄目なのか」
「昨日は飲み過ぎた」
 これが理由だった。
「どうもな。だから今日は一人で行ってくれ」
「そうか」
「ああ。しかし君は」
 青い顔で幸次郎を見てまた言う。
「強いな。本当にな」
「自分ではそんなに強いつもりはないがな」
 自分で思っているだけだ。彼はかなり酒が強いのだ。明人や昭光や友喜も倒れて青い顔をしている。彼だけが平気な顔をしているのだ。
「だが。行くか」
「そうしてくれ」
「よし」
 この言葉を受けて一人で学校に向かう。一人であの道を進む。やがて向こう側からあの人が来た。しかしだった。
 もうその人は見なかった顔も背け気味にしてすれ違うだけだった。それで終わりだった。
「終った話だ」
 すれ違い振り向くことなくこう言ってそれで終らせた。それからもすれ違うがもう見ることも振り向くこともなかった。幸次郎は道を踏み外さなかった。それが彼の全てだった。


すれ違い   完


                 2008・10・23

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