8部分:第八章
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ていた。
「それだが。林君」
「何だ、今度は」
幸次郎はここで達哉が急に畏まった言葉になったのを聞いた。
「随分と言葉が鋭くなっているぞ」
「どんな形でもいいか」
「どんな形でもとは」
「僕がこう思っているだけだが」
今度はこう前置きしてきた達哉だった。
「下手をすればな。あの人は」
「あの人は?」
「いや」
だがここで言葉を泊めた達哉だった。
「何でもない。気にしないでくれ」
「ここまで来て止めるのはどうかと思うが」
「気のせいだな」
こう言って言葉を止めてしまった達哉だった。
「やはり。気にしないでくれ」
「そうか」
「済まない。それでだ」
「うむ」
「そろそろ大物の場所だぞ」
達哉の言葉は今度はくぐもったものになっていた。
「そろそろな」
「大物?そういえば」
今の達哉の言葉から幸次郎は脳裏にあるものを思い出したのだった。
「ここはあれだったな」
「君も知っているか」
「ああ。山本公爵」
首相を何度か経験したこともあり天皇陛下の側にもいる政界の実力者だ。陸軍や内務省にその権力基盤があり時には政界の黒幕とも言われる男だ。
「あの人か」
「まあ屋敷の前を通っても何ともないと思うがな」
「流石にそれはないだろう」
幸次郎もそれは察していた。
「幾ら何でもな」
「色々と噂のある人物だがな」
この山本という人物はとかく評判の悪い人物なのだ。政界の黒幕としてだけでなく何かといえば汚職の疑惑が起こる。そのうえ陰謀家であり数々の政敵を陥れたとも噂されている。あくまで噂に過ぎないがその色の度合いは限りなく黒に近い灰色なのが実情である。
「それでもそれでは何もないか」
「そうだな。そろそろだが」
「緊張するか?」
「少しだが」
また答える達哉だった。
「緊張はしている」
「そうか」
「とにかく不審な動きは避けよう」
やはり緊張を感じてこのことを言う達哉だった。
「疑われたりすれば元も子もない」
「その通りだ。むっ!?」
幸次郎はあの人がここで右に曲がったのを見た。
「右に!?」
「公爵の屋敷に入ったぞ」
達哉も言った。
「ここで。ということはだ」
「娘なのか?」
幸次郎は言った。
「公爵の」
「いや、それはない」
だがそれは達哉によって否定された。
「公爵に娘はおられない」
「おられないか」
「それにあの年頃だと」
「孫か?」
「よく考えればだ」
ここで達哉はまた言った。顔を俯き気味にさせ目を伏せ顎に右手を当て考える顔になっている。そのうえでの言葉であった。
「この道は確か」
「確か。どうした?」
「それだけではないな」
こうも言う達哉だった。
「それにだ」
「どうした?」
「公爵の縁者ならば」
「
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