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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第四話 混沌の朝食場
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いあくま”さ」











「―――くしゅん」

 トリステインの関係者に用意された宿舎の中の一室に、遠坂凛の小さなくしゃみの音が響いた。

「あれ、風邪ですかミス・トオサカ」

 鼻先を指先で撫でながら凛が小首を傾げると、隣りに座って金貨を数えていたギーシュが心配気に声を掛けた。

「違うわよ。この感じは……誰かが噂でもしているわね」
「え? そんな事わかるんですか?」

 凛の後ろで山盛りになった本を抱えたレイナールが驚愕の声を上げる。しかし凛は小さく肩を竦めると鼻で笑った。

「なに本気にしてるのよ。そんな事わかるわけないでしょ。ただの冗談よ」
「……い、いや。ミス・トオサカが言ったら冗談に聞こえないですよ」

 折り重なって数々の本の山脈を形成している部屋の片付けをしていたギムリが、引きつった笑みを浮かべた。
 
「あの〜そろそろ朝食の時間なんですが」
「そう? まあ、確かに小腹が空いてきたわね」

 揉み手をしながら凛に近づきてきたマリコルヌが、媚びへつらった笑みを浮かべ窓の外へと視線を向けた。窓の外から微かに陽の光が差し込んできている。マリコルヌの言葉に机の上で開いていた本から顔を上げると、凛は小さく唸り声を上げ熟考した後、こくりと頷いてみせた。

「おお、やっと休憩か……」
「あ〜……やっと解放される」
「腹は減っているが、それよりも眠りたい」

 凛の許可の声に、ギーシュたちから歓喜の声が上がる。その様子を頬を掻きながら見ていた凛は、眼鏡を外すと椅子から立ち上がった。

「今日の朝食は士郎に頼んだから、寝てたら全部食べられるわよ」
「えっ!? 本当ですかっ!」
「おおっ、これは本当に楽しみだっ! よっしゃ! まずメシを食ってから寝るぞ」
「あっ! ちょっとギムリっ。そこだけは先に片付けてってああ〜もうっ! 待てってっ!」

 ほぼ徹夜状態であったにも関わらず、元気よくバタバタと外へと出て行くギーシュ達の後ろ姿を腕を組みながら眺めていた凛は、口元に苦笑を浮かべながらポケットからタバコの箱を取り出した。

「ま、一応これで一通り調べてみたわけだけど……流石にこの短い間じゃ殆んどわからないわねぇ……」

 ぽりぽりと後頭部を掻きながら、凛は片手で器用に箱から一本だけタバコを取り出し口に咥える。箱をポケットに戻すと、突き出した人差し指に小さな火を灯し、咥えたタバコの先に火を点けた。

「ふぅ〜……あ〜まったく本当に調べれば調べるほどわからない世界ねここは……」

 紫煙を吐き出しながら凛は先程まで読んでいた本へと視線を落とす。
 凛がこの世界に来てから様々な手段で手に入れた数多くの資料の中で、唯一といっていい当たり(・・・)

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