第十五章 忘却の夢迷宮
第四話 混沌の朝食場
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じらせる士郎だが、直ぐに小さく肩をすくませるとジュリオのために新しい皿へと手を伸ばした。
「ええ勿論、といいたいのですが、それはまた今度にしておきます」
「……なら、何の用だ。さっきも言ったが、皆の朝食の準備で急いでいるんだが」
「ええ、わかっていますよ。ですから、直ぐに終わらせます。そう時間を掛けるものではありませんから」
手にとった皿を元の位置に戻しながら士郎が振り返ると、そこには頭を下げたジュリオの姿があった。
「なんのつもりだ」
「あなたに対ししてしまった事への謝罪です。やむを得ない状況だったとは言え、手荒な手段に出てしまいました。改めてこの場で謝罪し―――」
「―――やめろ」
ビクリとジュリオの身体が跳ねたが、頭は上げない。頭を下げたまま視線だけを士郎に向ける。
「怒るのは最もです。しかし―――」
「そうじゃない」
ジュリオに向けていた視線を外し、朝食の準備を再開を始める士郎。話を遮られたジュリオは、士郎の声に怒りの様子が見えない事を訝しげに思いながらゆっくりと顔を上げていく。
「怒っていない、と」
「まあ、いい気がしないが、ただそれだけだ」
「自分たちのしたことですが、かなり手荒な方法を取ったと思っていますが」
「確かにな」
サラダを大皿に盛り付けながら士郎は小さく頷いた。
「だが、謝るのなら俺ではなくルイズ達の方だろう。俺をダシに良いように使っていたみたいだが」
「そうですね」
悪びれもなく肯定するジュリオに、サラダを盛り付ける士郎の手が止まる。
「……“聖地”の回復か」
「ええ。それがわたしたちの―――いえ、ぼくたち信徒全員の夢です。だから、そのためになら、ぼくたちはなんでもします」
鋭く、決意を秘めた声と共に強い視線を向けてくるジュリオに、士郎は微かに笑みを含みながら頷いて見せた。
「ああ、よく知っている」
瞬間、ジュリオの背に寒気が走った。
「―――っ」
別に強い口調で責められたわけではない。
鋭く刺すようにきつい言葉を向けられたわけでもない。
憎しみや怒りが篭った激しい何かがあるわけではない。
しかし、それには何かがあった。
それなりに修羅場といったものを潜ってきたジュリオでさえ、息が詰まるような圧力。
氷の刃が背を撫でたかのような、恐ろしい程に冷たく鋭い痛みにも似た寒気。気付けば全身に鳥肌が立ち、身体は震えていた。
じっとりとした汗が浮いた掌を服の裾で拭いながら、ジュリオは粘つく唾を飲み込み口を開いた。
「よく、知っている、と……それは」
「どうやら俺は色々と宗教関係者には縁があるようでな。本当に色々と世話になったものだ」
背中を向けて顔が見えないが
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