第十五章 忘却の夢迷宮
第四話 混沌の朝食場
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「―――良し、いい味だ」
口の中に広がる汁物の味に一つ頷いた士郎は、傍に用意していた皿の中に完成したスープを注ぎ始めた。底の深い皿に注ぐスープは薄い茶色をしており、具材はじゃがいもやキャベツの姿が見える。鼻を撫でる懐かしい香りに、士郎の頬も思わず綻ぶ。
士郎が鼻歌でも歌いかねない様子で注ぐその正体。
そう味噌汁である。
何故、味噌がない筈の異世界であるハルケギニアに味噌汁が?
その答えは単純明快であった。
ないなら作ってしまえ、である。
この世界には、名前が違うだけで元の世界にある食材に似たような食材が多くあった。その中に大豆があった事から、士郎の主夫魂と日本人魂に火が付いたのが約一年前。士郎が食堂の親父と仲良くなった後の事である。魔法学院料理長という料理界ではトップの地位に立つ親父の力の協力の下、取り掛かった味噌づくりが、つい先日完成したのだ。
元の世界と色々と勝手が違った事から、完璧とは言えない結果だったが、十分に味噌と言えた。
先の見えない膠着状態の戦場において、食事は貴重な娯楽の一つであった。本格的な戦闘が始まってはいないが、戦場にいるというだけで見えないストレスはある。普段と変わりがないように見えるが、見えないだけで本人も知らないうちにそういったものは溜まってしまうのだ。戦場に慣れた士郎ならばともかく、修羅場の数を見ればそこらの傭兵よりも数多くくぐり抜けてきたルイズたちであるが限界はある。
それを解消するに一番なのは、やはり食事である。
それも美味ければ美味いほどいい。
美味い物を食べている間は、どんな時であっても良いものだ。
色々と悩みがあるだろう面々の事を考えながら士郎が味噌汁を皿に注いでいると、
「おはようございます、シロウさん」
「ジュリオか」
背後から声を掛けられた。
士郎は振り返る事なく皿に味噌汁を注いでいる。
「こんな朝早く何の用だ?」
お玉を鍋の中に戻した士郎は、エプロンの前掛けで手を拭きながら後ろを振り返った。
「見ての通り朝食の準備をしているんだが、急ぎじゃなければ後にしてもらえるか」
「嗅ぎなればい香りですが、それは一体?」
ジュリオの質問に、士郎は腕を組みながらチラリと背後に並ぶ味噌汁入りの皿を見下ろした。
「味噌汁だ」
「ミソシル?」
「ま、少し風変わりなスープといったところか」
「へぇ……美味しそうですね」
「ん、そうか」
鼻をヒクつかせながらどことなく物欲しそうな顔をするジュリオに、思わず士郎は頬を緩めた。
「余裕はまだあるからな。欲しいならお前も食べてくか?」
「いいんですか?」
「ああ、構わないが……面倒は起こすなよ」
一瞬だけ視線に鋭いものを混
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