6部分:第六章
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今いるこの時代よりも遥かに後のことである。
「その彼等を殺したというのか」
「粛清だ」
ここで幸次郎はこの言葉を出した。
「そういう名目でな」
「だが殺したのだな」
「そうだ」
ここでも事実のみを語る。
「殺した。その労働者や農民をな」
「そもそも自分達に反対しているというのにか」
「大体おかしいのではないのか?」
明人がいぶかしむ顔で言ってきた。
「労働者と農民の政権だな」
「うむ」
幸次郎は明人が言ったそのお題目に頷く。
「そうなっている」
「何故それで反対者が出る?」
「それはその政権がおかしいのではないからではないのか?」
「確かにそうなるな」
達哉と友喜も言う。
「それに意見したからという理由で粛清か」
「我が国より酷いではないか」
当時の日本もある程度の検閲や統制はあった。しかしそれで人が殺されたということはなかったのだ。だからこそ彼等は言うのだ。
「そうした国が出て来たのか」
「名前はソ連だったな」
「ソビエト社会主義共和国連邦という」
幸次郎はこのいささか長い国名を一同に告げた。
「どうやら。恐ろしい国家のようだな」
「しかしだ。最近」
「どうした?」
達哉の言葉に顔を向ける。
「その共産主義を理想だという連中もいるぞ」
「馬鹿だ」
一言で切り捨てた幸次郎だった。
「何もわかっていない奴等だ」
「何もわかっていないか」
「ああ。僕はそう思う」
己の考えを否定しない。はっきり見せてさえいる。
「連中は何もわかっていない。全くな」
「そうなのか」
「そのうちわかる」
幸次郎は確信を持って言った。
「共産主義が何なのかな。いや」
「いや?」
「既にわかっている者はわかっている筈だ」
「君のようにか」
「おそらく。これから共産主義やソ連を賛美する連中がどんどん出て来る」
読んでいる目だった。これからの流れを。
「そうした連中の中にはとんでもない奴等もいるだろう」
「とんでもない奴等か」
「共産主義の本質をわかっていてあえてそれを押し通そうという連中だ」
「待て、それは」
「恐ろしいことだぞ」
「うむ」
四人もここで気付いた。幸次郎が何を言ったのかを。
「自分達が権力を握る為にか」
「共産主義を押し通すというのか」
「共産主義は支配される者達にとっては暗黒そのものだ」
まさにその通りだった。ソ連の正体は収容所群島だった。既にこの時代においても話は漏れ伝わっていたのだ。情報を完全に統制することは不可能なのだ。
「しかし支配する側にとっては」
「このうえなく甘美なものか」
「絶対者になれる」
ここにあった。
「それならば支配を望む側にとっては有り難いことだな」
「そういうことか」
「それではやは
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