暁 〜小説投稿サイト〜
すれ違い
1部分:第一章
[3/3]

[9] 最初 [2]次話
れていたのだ。
「士官学校を出た軍人達がやることだ。大学の僕達がやることじゃない」
「それが残念だな」
「しかし論ずることはできるからな」
「そうだ。まず言うことだ」
 幸次郎は生真面目な顔で右手を拳にして語る。それはまさに演説をしている姿であった。
「言わないと何にもならない」
「その通りだな」
「そうだ。では浜崎君」
「うん」
「今宵も友人達と杯を交えながら語るか」
「酒はあるのか」
「それならおかみさんが用意してくれた」
 宿舎のおかみさんがである。
「僕達の為にな。一升瓶を何本もな」
「ではそれを飲んで語るとするか」
「そうしよう」
 酒の話も入るのが学生らしかった。どちらにしろ二人は大真面目に議論しつつ歩いていた。しかしここで不意に二人の横をある女が前から来たのだった。
「むっ!?」
 最初に彼女を見たのは達哉だった。
「ほう」
「どうした、浜崎君」
「いや、見給え林君」
 彼に対して声だけで見るように告げる。
「前から来るあの御婦人を」
「御婦人をか」
「不謹慎なことを言うが実に美しい」
 楽しげに笑って幸次郎に言うのであった。
「あの御婦人は。実に」
「むう」
 幸次郎は達哉のその言葉を受けてその婦人を見ることにした。そうして見てみれば。
 赤い紅色の小袖を着た二十二か三の妙齢の女であった。その着物は絹で見事な艶がある。それに桃の花の刺繍が奇麗に入れられている。その着物が彼女が持っている白い日笠とよく似合っていた。

[9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ