6部分:第六章
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述べてきた。
「ここにな」
「ですが私は」
貂蝉は彼の言葉にも笑みにも顔を背けて言った。
「もう太師の」
「太師のことは最早いい」
だが呂布はここで彼女にこう述べた。
「わしはもうそなただけしかいらぬ」
「私だけが」
「そうじゃ」
彼はまた言う。
「だからここを出よう」
「二人きりでですか」
「左様、二人でな」
貂蝉を見詰めている。見詰めるその目の中には彼女しか映ってはいなかった。
だから彼は気付かなかった。彼女の目に彼は映っていなかったことに。そのことに気付かない程一途に彼女のことを想ってしまっていたのだ。
「では行くぞ」
呂布は貂蝉の華奢な両肩に己の大きな手を置いて声をかけてきた。
「二人で」
「何処へ」
「そこまではわからぬ」
すっと笑って述べた。彫の深い顔に穏やかな笑みが浮かんでいた。
「しかし。わしにはそなたがいてそなたにはわしがいる。だから」
「平気だと」
「どの様な者が来てもわしには勝てぬ」
彼は断言した。
「心配は無用じゃ」
「太師が追って来られても」
「構わぬ。わしがおる」
「左様ですか」
「じゃから。行くぞ」
そのまま彼女を連れて出ようとする。ところが。
「むっ!?」
それは小戟であった。手に持って投げるものである。
寸分違わず呂布の眉間を狙っていた。しかしその程度のものは彼にとっては造作もないことであった。瞬き一つせずその小戟を右手ではたき落とす。戟は枯れた音を立てて庭に転がった。
「誰だ」
「言うまでもなかろう」
太い男の声がした。董卓が二人の前に姿を現わしてきた。その顔は憤怒の相になり目からは火が出るようであった。その顔と目で呂布を見据えていた。
「離れよ。二度は言わぬ」
「それはこちらの言葉だ」
呂布はそう董卓に返す。
「太師匠」
そのうえで彼を呼ぶ。
「貂蝉を私に譲って下さるのではなかったのですか」
「貂蝉はわしのものだ」
それが彼の返事であった。
「それ以外の何者でもない」
「左様ですか。それは私も同じこと」
貂蝉の身体を横に置き両手をその肩に添えながら述べる。
「私もまた貂蝉を」
「他のものなら何でもやる」
董卓は少しずつ二人に近寄りながら述べる。その腰には剣がある。
「天下ですらな」
「天下は貴方のものです」
呂布は彼に言った。
「そうではなかったのですか?」
「ふん」
しかし董卓はここでそれを否定してきた。
「天下か。下らぬな」
「何と」
「確かに今までのわしは天下を追い求めていた」
驚く呂布にそう告げる。
「しかし。最早そんなものはどうでもよいのだ」
「どうでもよいと仰るのか」
「天下になそ何の価値がある」
彼は言う。
「一人の女に比べればな。何
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