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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
8.それは男のロマン
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り羨ましいぜ」
「それは、どういう意味だろうか?」

 リングアベルとしてはひょっとしたら怒られるかもしれないという意識は持っていた。だが、主人は怒るどころか羨ましいという言葉を発した。その理由が分からなかった。
 主人はその質問に、過去を回帰するような遠い目で答える。

「剣ってのは相手に近づいて斬らなきゃならねぇ。だが、魔物に近づくってのは怖ぇもんだ。だから俺はより近付かなくていい槍にした。………それでもへっぴり腰が治らなくてな?結局レベルは1のまま、素質がねえからってファミリアを抜けちまったよ。………俺はな、この槍に無茶すらさせてやれなかったんだ」
「本懐を遂げる事の出来なかった槍か……まるで実らなかった恋のように哀しい謂れだ」
「へっ、失恋か。……『英雄』って言葉に恋して戦ってたことを考えりゃ、失恋ってのも間違いじゃねえな」
「俺なら恋する相手は美女にするが、強さと名声もまた女性を惹きつけるステイタスの一種か……」
「おい、今真面目な話だぞ。こんな時まで女の話たぁ、おめぇも筋金入りだな……」

 怒るでもなくがははは、と笑った主人は、少し待っていろと告げて宿の奥へと歩いていった。
 数分後、主人は布にくるまれた二つの武器を抱えて戻ってきた。

「ずっと冒険者時代の名残で捨てられなかったんだが……使い潰された槍を見て決心がついた。おめぇ、こいつらも使ってやってくれんか?」
「これは……剣に槍か?」

 主人は槍をカウンターに置き、鞘に収まった剣をリングアベルの方へ投げ出した。
 差し出された剣を鞘から抜く。ギルドの支給する剣よりは幾分か上等な剣なようで、光を反射する輝きが眼に眩しかった。恐らくはかなり磨きこまれているのだろう。

「片方は無銘のブロードソードだ。駆け出しの頃に使ってたが、値段の割には悪くない切れ味だし手入れも欠かしてねぇ。もう一本はお前に渡したのより一回り上質な槍だ。先端は安物だがミスリル鋼で作られてる………へっ、安月給で無理して買ったもんだぜ。今じゃ宝の持ち腐れだ」
「主人……本当に俺が貰っていいのか?貴方にとっては古女房みたいなものだろう。そうでなければ使わない武器などとっくに売っている筈だ」
「へっ………俺はもう妻子持ちだ。うちの娘はやれんが、こいつらをお前に託す」

 冗談めかして笑った主人は、不意に真剣な目をした。

「おめぇの噂は聞いてる。アスタリスク持ちだとか、バグベアーを瞬殺しただとか………だがそんなこたぁどうでもいいんだ。俺は、あのボロ槍を真剣に使いこなしてキッチリ戦って見せたおめぇの漢気を知って決めた」

 槍を掴んだ拳が、リングアベルの胸に当たる。
 剣を腰に差して槍を手に取ると、主人はニカッと笑って槍を手放した。
 その笑顔は見ていて実に清々しく、まる
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