2部分:第二章
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第二章
「この宴を」
「はい、充分に」
劉禅は温和そのものの顔で彼の問いに答えた。
「楽しんでおります」
「この国での暮らしは楽しいですか?」
彼の今度の問いはこれであった。
「この国は」
「はい、充分過ぎる程です」
魏での暮らしも楽しんでいるという。
「楽しんでおります」
「左様ですか。それでは」
これも特に何も考えていない問いであった。しかしそれでも極めて重要な問いであった。
そしてその問いを今出すのであった。
「蜀を恋しいとは思われますか?」
この問いをかけたのである。
「蜀は。如何でしょうか」
「いえ、恋しいとは思いません」
これが劉禅の返答だった。
「ここは充分に楽しいです。蜀を恋しいとは思いません」
劉禅の今の言葉を聞いてだ。彼についていっていた蜀のかつての家臣達も彼を暗殺しようとしていた魏の重臣達も唖然となった。そうして完全に呆れ返ってしまった。
「何という男だ」
「この様なことを言うとは」
こう言ってであった。最早何をする気も起こらなかった。
「反乱を起こすことは絶対にない」
「そんな器量はない」
この判断を下すしかなかった。そしてだ。
実は蜀の者達の中には彼を担いで再び国を起こそうと考えていた者達もいた。しかしその彼等もだ。
「この有様では」
「最早どうしようもない」
「駄目だ」
絶望と共に諦めた。ただ劉禅だけが笑っていた。
この話は忽ちのうちに広まった。人々は心の中で劉禅を嘲った。だが彼だけは平気な顔であった。
しかしである。この話を聞いた司馬炎はだ。こう言ったのである。
「あの男はよくわかっているのだ」
「よくわかっているとは?」
「最早蜀の命運は完全に尽きた」
こう側近達に言うのである。
「いや、国ができた時からだ」
「その時からですか」
「僻地の小国に過ぎなかった」
これは紛れもない事実だった。蜀は魏から見ればほんの小国だった。これは呉にしても同じであるが蜀の方が小さかったのである。
「その国で今反乱を起こすとする」
「その場合は」
「どうなると」
「悲しい思いをするのはあの男ではない」
劉禅ではないというのだ。
「民だ」
司馬炎が話に出したのは彼等であった。
「戦が起こり民達が悲しむことになる」
「民がですか」
「民達が」
「彼はそれがわかっているのだ」
何と劉禅を肯定する言葉を出すのだった。
「そうしたことがだ」
「では」
「だからこそですか」
「そうだ。あえてああ言ったのだ」
そうだというのである。
「ああしたことを言えば誰もが愚かだと思うな」
「はい」
「確かに」
それは彼等も同じだった。実際に劉禅を愚かだと思った。それは事実でありその為侮りもしていた。
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