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阿斗
2部分:第二章
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だが司馬炎はそれは違うというのだ。
「それはです」
「確かに」
「しかし」
 しかしなのであった。
「それは違うのだ。若し彼が担がれてはだ」
「戦乱が起こる為に」
「それを避けて」
「そして実際に避けられた」
 彼が愚かだと思われることによってだ。
「自分自身の命を守ることになったしな」
「それは、その」
「つまりは」
 側近達は今の司馬炎の言葉には口ごもった。既に彼等が暗殺を計画していたことを察されていたのだ。それを言われたからである。
「わかったな。彼は愚かではない」
 あらためて言う司馬炎だった。
「だが。これは史書には書かれないだろう」
「それはですか」
「書かれませんか」
「後世でもよくは書かれないだろう」
 そのこともだというのだ。何もかもが彼にとってよくないことになるのだという。
「しかしそれでも民を護ったことは事実だ」
「それはですか」
「その通りなのですね」
「そういうことだ」
 こう家臣達に話すのだった。これ以降司馬炎は彼を丁重に遇しその死まで面倒を見た。今も劉禅という人物の評判は芳しくない。だが彼が真にはどういう人物だったかを知る者はいないし確かめる術もない。真実は歴史に書かれていることが全てではないのである。


阿斗   完


               2010・2・8

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