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第一章
阿斗
国が滅んだ。歴史ではよくあることだ。
しかしこの人物は後世において歴史の評判はその国を滅ぼした人物の中でもすこぶる悪い方に入る。その名は劉禅、所謂蜀の後主である。
蜀が滅んでから彼は蜀を滅ぼした魏に入った。そこで安楽公に任じられた。つまり貴族に遇されたのだ。
しかしである。この貴族として列するにあたってだ。魏の中でも様々な議論があった。
「仮にも蜀の皇帝だった男だ」
「そうした男を殺さずにいていいのか」
「利用されまいか」
「しかもだ」
危惧する言葉は続く。
「あの男が国の復興を企むとなると」
「また蜀の重臣達が担ぎ出しはしないか」
「第二第三の反乱が起こらないか」
「そうだ、それは有り得るぞ」
蜀が滅んだ直後に反乱が起こったのだ。それで蜀を攻めた将達が死んでいる。何しろその反乱を起こした側に蜀の重臣にそそのかされた魏の指揮官もいたのである。それで危惧を感じない者がいない筈もなかった。
結果としてである。劉禅を殺してしまおうという者もいた。だがこの時切れ者であり冷酷非情なことでも知られる実質的な魏の主である司馬昭は死んでいた。それに代わって魏を治めていたのは彼の子である司馬炎であった。
彼は非情に穏健な性格をしていた。それで彼は臣下の言葉にまずはこう言ったのである。
「殺すことはない」
彼は血を見ることを望まなかったのだ。
「何もだ。それはだ」
「ではこのままと」
「何もされないのですか」
「そうだ。殺してはならない」
これが彼の言葉であった。
「最早蜀は我等のものとなった。そして魏もだ」
今彼が実質的に治めているその国のことも話すのだった。
「間もなく禅譲を受ける。そして呉もだ」
全ては彼のものになるというのだ。それにあたってである。
「統一される。無闇な血は流してはならない」
こう言って劉禅を殺そうとはしなかった。少なくとも彼はそうした考えだった。
しかしである。彼の臣下の一部はだ。それでも警戒を続けていた。そうしてある時密室でこう話をしたのだった。
彼等の他には誰もおらず暗くなっている部屋の中でだ。顔を見合わせてそのうえで話をしていた。その話をしている内容はといえばだ。
「やはり殺すか」
「そうするか」
「さもなければ担がれて反乱を起こされるか」
「あの男がまた立つかだ」
こう言い合っていた。
「だからだ。ここは何としてもだ」
「あの男を殺すか」
「しかしどうする?」
ここでその殺し方について話された。
「どうして殺すかだが」
「何、それは簡単だ」
中の一人が剣呑な言葉と共に述べた。
「それもだ。簡単だ」
「簡単だというのか」
「毒だ」
これが話に出て
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