暁 〜小説投稿サイト〜
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第十九話
[6/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
根性見せやがれ!!」

 再び蹴り込まれる。だが、うめき声こそ漏らすリリだが、決して逃げ出そうとはしなかった。ひとときの狂気に身を委ね、そこから正気に戻ったリリは今の自分が誰よりも汚らしく醜いと悟ったためだ。

 あと少し我慢していればまだ他の道はあったのではないか。あと少し努力していれば変わった未来があったのではないか。

 意味の無い追憶が過ぎる。だけど、確かにリリは、悪人とは違って己の過ちを後悔し、罰を受け入れることができた。
 そんなリリを前に被害にあったヒューマンは苛立ちしか覚えず、何度も暴力を振るう。しかし、それも少し続いた後に、彼の仲間らしき冒険者が更に二人加わった。その二人の顔を見たリリが驚愕に染まる。

(【ソーマ・ファミリア】!?)

 彼らは何か言葉を交わしているが耳に入ってこない。単純に執拗な頭部への攻撃を受け続けたリリの聴覚が正常に働いていないためである。だが、目の前の二人の冒険者の登場によってリリは現状に至った理由を把握した。そして、同時にリリに暴力を振るい続けていたヒューマンへ心の底から哀れみを寄せた。

 なぜなら、【ソーマ・ファミリア】は己の利益のためなら何でもする奴らだから。

「しょ、正気かてめぇらああああああああああああああああ!?」

 彼らが次々と取り出しては投げ出してくるのは、生殺しにされたキラーアント。口腔の開閉を繰り返しながら悶え苦しむように残った触角を振り回している。いつの間にか別々の通路口から違う冒険者も現れ、彼らの行動に倣っていた。

 キラーアントは瀕死の状態に陥ると特別なフェロモンを発散する。それは仲間を呼び寄せる特別信号だ。冒険者ならば誰でも知っている常識だ。

 まさに瀕死まで追い込んだキラーアントを次々と放り込んでくる冒険者。彼らが何をしたいのか、ヒューマンもようやく理解したのだ。死骸になり損ねた蟻たちは、今まさに時限爆弾として機能しているのだから。

 【ソーマ・ファミリア】の一人の男─確か名前はカヌゥといった─が刻一刻と死の蟻が集まっている中でもぴくりとも表情を動かさずに、ヒューマンの男を脅している。ろくに言葉は聞こえないが、リリには解る。リリから巻き上げた金品を残してさっさと消えろ、とでも言っているのだろう。事実、憤怒の対象であるリリを目の前にしているにも関わらず逃げ出さないといけない状況に追い込まれたヒューマンは怒りと恐怖と動揺で目まぐるしく顔色を変化させ、しまいには逃げ出した。が、その数秒後に通路の奥から悲鳴が響き渡り、それ以来は静寂が訪れるだけだった。

 無表情でその方角を見ていたカヌゥは、やはり興味無さそうにリリに振り向き、すぐそばに跪いた。

「よぉ、助けに来てやったぜ? お前を助けるためになぁ。……言わなくとも解るよな」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ