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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第十九話
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も知れないその言葉を脳内で反芻した。

 理不尽の前で何度も屈しかけた彼女だが、それでもいつか救われる日が来るのだと。自分が唯一認めた大英雄のように努力が実を結ぶはずなんだと。ただそれだけの思いを支え棒に、今日まで頑張ってきた。頑張ってこれた。

 だけど、限界だった。耐えられない。我慢できない。報いは無い。

 ベルという希望を見た分、相対的に己を囲う環境に絶望しきってしまったのだ。

 死にたくない。裏切りたくない。捨てたくない。捨てられたくない。

 相反する感情が小人族(パルゥム)の小さな体の中で鬩ぎあった結果、リリは負を選択したのだ。これはひとえにリリが悪だと断ずることの出来る事ではない。この出来事を招いた主犯はリリを取り囲む環境であり、リリにすべてをなすりつけた両親の無責任さである。

 だからリリは悪くない。しかしリリが悪いようになってしまった。ただそれだけの話だった。

(ベル様だって冒険者、冒険者は最悪な奴ら、えぇ、きっとそうに違いありません! たまたま良い顔を見ただけでリリは何をバカなことを!)

 常人ではとても抱え込めない荷物を持って、リリは通路を走る。両肩を回るバックパックの帯に手をかけながら、淀みなく迷いなく、迷路を進んでいた。全部冒険者のせいだと言っていなければ正気を保っていられなかった。

 その思考を読み取ったようなタイミングだった。

「嬉しいねぇ、大当たりじゃねぇか」

 ベルに大量の大型級モンスターを擦り付けて七階層まで逃げていた途中だった。狭い通路を抜け、ルームに飛び込んだ瞬間だった。横から伸びてきた足が、身長の低いリリの膝を捉え、豪快に地面へ飛び込んだ。

 突然のことに混乱しながら地面に手を突き起き上がろうとしたところを、容赦のない蹴りが顔面に数回叩き込まれ、鼻頭につんと鉄の臭いが充満、口に生温い液体が伝った。

「う"ぅ……」
「この糞パルゥムがッ!!」

 髪を掴まれ強引に起き上がらせられ、そこにもう一発力任せの拳が頬に叩き込まれる。未だ相手が誰なのか解らないまま袋叩きにされるリリ。

 激痛の渦に身を虐げられるなか、チカチカする視界で捉えたのは一人のヒューマンの男性。もとの雇い主だ。それを認識したとき、リリの心の中に過ぎったのは冒険者に対する憎しみではなく、己に対する嫌悪感だった。

 これは、リリに対する罰。善意しか知らなそうなベルを裏切るどころか、あろうことか証拠隠滅のために間接的に殺そうとした罪。その因果応報が今、本当に醜い冒険者の手に委ねられたんだ。

 血の味が口の中にも広がる中、目の前の男が何かを言うたびに体に激痛が走る。これら全てがリリに下された罰なんだと思った。

「あン? 意外と大人しいじゃねぇかよ。媚びるくらいの
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