飛龍舞う空に恋の音
[1/17]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ある村で黒煙がもうもうと立ち込めていた。
悲鳴が聞こえる。断末魔の叫び声が聞こえる。下卑た笑い声と愉悦に浸った声が聴こえる。
若い女、まだ年端もいかない少女までもが延々と慰めものにされていた。数だけで百は居る男の兵士達が群がって、何人も何人も順繰りにまわして、精神が壊れるまで弄び続けていた。
子供達が磔にされていた。親の目の前で八つ裂きにされ、願う声など一滴も届くことは無く、血と臓物を吐き出した肉袋にされていった。
兵士達はその狂乱の宴に心身を委ね、人では無いケダモノへと堕ちてしまっていた。
否、兵士……そう呼ぶのも憚られる。もはやそれは兵とは言えない。ただの賊徒と変わらない。賊徒よりもっと酷いかもしれない。
遠く外れた場所で、比較的まともな精神の兵士達を纏めながら、心底うんざりだというように一人の少女は空を見上げていた。
「……くだらないのです」
悪龍の背に乗り、軍師として一段階上の高みへと一人昇りつつあるその少女――ねねが吐き捨てる。
人の悪感情を利用して暴走させ、孫呉という昔からの敵対勢力への当て馬と為す。確かにその策は成功したと言える。
主である孫策、統括頭脳である周瑜を洛陽に縛り付けたのは、今は亡き悪龍の命を使った策。彼女の誇り高さも気高さも、ねねの心の内にしっかりと残っている。
欲望に支配されて果実に群がる下卑た男達とは全くの別。劉表のように己が生命すら策と為すことが出来るのは……それはなんと、なんと美しきこと。ねねはそう思う。
――ねねに未来を託してくれた龍飛の想い、こんなところで潰えさせるわけにはいかないのですよ。
連合で散った友は、夜天の王の誇りを守る為に命を賭けた。
仮初めの主は、乱世を喰らいきる為に命を賭けた。
あの優しい夜天の王であれば……きっと命を賭けたのではないかとさえ思えた。
それが出来ぬモノに此処に立つ資格など無い。幼いねねでさえ、命を賭して戦っているから……彼女の周りに侍る兵士達はついて来る。
練度は平均的であろうとも、頭が付くだけでがらりと変わる。それでいて彼女の戦術的視点と爆発力は並み居る軍師の中でも群を抜いている。あの詠でさえ、彼女の爆発力を恐ろしいと評価していたのだから。
ここ数か月の間に繰り広げた戦闘は十を超える。彼女はその度に兵士達に死線を潜らせて叩き上げして、実力的には劣ろうとも“呂布隊とほぼ変わらぬモノ”を創り上げた。
信頼は並では無い。ケダモノに堕ちた同僚たちを哀れとさえ感じてしまう程に心を高めさせたのは……龍の想いを継ぐモノとして常に先頭で戦場を見抜いて来た彼女あってこそ。
「甘い……甘過ぎるのです孫呉……」
舌打ちを一つ。
美周嬢と小覇王が居なければこんなモノなのか、と落胆さえ隠せない
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ