飛龍舞う空に恋の音
[17/17]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
想い人を失った。二度と間違いなど繰り返す気は無かった。
朱里は軍師として此処に立つ。親友に向けるのは懺悔と決意。想い人に向けるのは後悔と
大陸で一番の軍師になる為に、此処に立っていた。
ひらり、と白羽扇が空を裂いた。
機を得たり。彼女はこの時を待っていた。探し人は見つかった。悪龍が残した策の全てを、彼女は今、受け取った。
一人の少女が目の前に居た。暗い昏い怨嗟を宿した、自分を殺す権利のある者が立っていた。
その少女の後ろに並ぶのは薄緑色の鎧を着た男達。まるで空を飛ぶ龍のような色だなと思った。
朱里は微笑みを崩さずに、睨みつけて来る少女をじっと見据えた。
朱里の瞳の奥から暖かな光が消える。敵を追い詰める冷たい軍師になれるよう……もうそろそろ、身体を上げて空を飛ぼうと。
「……初めまして。私は諸葛孔明と申します。内密の会合を受けて頂きありがとうございます……陳宮さん」
ふん、と鼻を鳴らした小さな少女は、犬歯をむき出しにして朱里に唸った。
「文は見たのです。一時的に受ける、と返事はしてやります。ですが、先にこれだけは言ってやりますぞ……お前は……最悪の軍師なのです、諸葛亮っ」
狂気すら感じる憎しみの感情を叩きつけられても、朱里の心は揺るがない。
全てはこの乱世を終わらせる為に。桃香の望むモノを為す為に。
その為には……悪であろうと善であろうと利用しなければ……生き残れない。
震える心臓が胸を打つ。甘い甘い感情が心を溶かす。黒い獣が求めていた。人を外れた策を出したあの男を、そしてあの男を越えることを、朱里は求めていた。
アレを越えなければ。アレを……いつでも朱里の先を歩いていたアレを……黒麒麟を敗北させなければ朱里の望みは叶わない。
彼が最後に向けた絶望の黒瞳に比べれば、怨嗟の瞳は些細な恐怖しか起こさない。
故に朱里は……幼い身体に似合わぬ妖艶さで、笑った。
「……それでは、“同盟”は成立ということで……」
まるで天に昇った悪龍と相対しているかのようで、ねねの心は僅かに圧された。
彼女の想いは膨れ上がる一方だった。
欲しい、欲しいと喚いて仕方ない。主の為が一番でありながら、黒い獣はもう一つ欲しいと喚き続けていた。
――……あの人をもう一度手に入れる為に。
狂おしく懺悔する夜を幾重も越えても、彼女の想いは変わらない。
伏したる竜は翼を広げ、飛龍の策を喰らいて天へと上る。其処に鳳凰が立ちはだかることを知っていながら。
「……“曹操軍打倒の第一歩”を……始めましょうか」
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ