暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
飛龍舞う空に恋の音
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まった。心の奥底に打ち込まれた楔が機能するほどの情報を。
 いつかは小蓮も知ったであろう。しかしながら、今日は些か時機が悪かった。
 今日は建設中のとある店のお菓子が事前に届く日で、八つ時にそれを食べたばかり。甘い甘いそのお菓子には、楓蜜という頬が蕩けるくらい美味しいシロップが掛かっていた。
 前に食べた味だった。街に出て手に入れたモノを少しだけ分けてくれた、二人で食べた思い出の味。

 故に、彼女は明確に判別する。
 姉達とそのモノの違いを。

――曹操と黒麒麟は姉さま達と違う。どれだけ大きな大罪を犯した敵でも、命を奪わないこともある。なら……美羽は……?

 一寸の期待が、希望が、胸に芽吹いた。
 姉達は必ず殺すと言っていた。なのに殺さない方法もあった。それが世界に存在を捧げさせるという、人の範疇を超えた罰を与えることであっても。

 小蓮は少しばかり長く袁家に居過ぎた。
 それでいて孫呉の考え方を根本に持っていた。
 故に、この変化は当然。幼い小蓮が、人々の誰もが恐怖を覚える……覇王と黒き大徳の策に、恐怖を覚えず感嘆の念を込み上げさせてしまうのも、である。

――命さえあれば、きっと幸せになれるから。

 生きている限りは幸せを探せるから、と。
 奇しくもその思考は七乃が持つ狂愛の雛型で、孫呉が掲げてきたモノの根幹。
 立場が違えばこれほどまでに違う。

 胸の中にある気持ちを吐き出した。
 この安堵は確信から。七乃の有能さを知っている為に、七乃を従えたい敵が美羽を殺すわけもない、と。
 ほろりと涙が一筋。
 まだ確実な情報として手に入れてなくても……それで間違いないと“勘”が告げていた。

 一番上の姉がよく言っていた。これがそうなのかもしれない。なんとなく分かるこの勘を、彼女は信じることにした。

「ふふ……そっか、生きてるんだ」

 なぁんだ、と彼女は零した。
 少女にしては大人びた笑みだった。

「じゃあさ……」

 これでいい、これでいい。
 自分の中の澱みは大きく浄化された。あとは、自分のしたいようにするだけだった。

「守ってあげられるくらいに、シャオが伸し上がっちゃえばいいんだ。そうすればどっちも救えるしどっちも幸せになれるよね?」

 袁術としては暮らせなくとも、ただの友達としてでも傍に居てくれたらそれでいい。美羽は美羽であり、袁術でなくともよいのだから、と。

 それがどれだけ異質な思考か彼女は分からない。
 しようと決めたことが何処かの壊れた男の在り方に似ているとも、彼女は知らない。

 毒は知らぬ間に成長していく。周りの為にもなるのだから気付くこともなく。
 七乃が残した袁家の毒は、本人さえ考えの及ばぬ大きさになろうとしていた。


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