飛龍舞う空に恋の音
[15/17]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
まった。心の奥底に打ち込まれた楔が機能するほどの情報を。
いつかは小蓮も知ったであろう。しかしながら、今日は些か時機が悪かった。
今日は建設中のとある店のお菓子が事前に届く日で、八つ時にそれを食べたばかり。甘い甘いそのお菓子には、楓蜜という頬が蕩けるくらい美味しいシロップが掛かっていた。
前に食べた味だった。街に出て手に入れたモノを少しだけ分けてくれた、二人で食べた思い出の味。
故に、彼女は明確に判別する。
姉達とそのモノの違いを。
――曹操と黒麒麟は姉さま達と違う。どれだけ大きな大罪を犯した敵でも、命を奪わないこともある。なら……美羽は……?
一寸の期待が、希望が、胸に芽吹いた。
姉達は必ず殺すと言っていた。なのに殺さない方法もあった。それが世界に存在を捧げさせるという、人の範疇を超えた罰を与えることであっても。
小蓮は少しばかり長く袁家に居過ぎた。
それでいて孫呉の考え方を根本に持っていた。
故に、この変化は当然。幼い小蓮が、人々の誰もが恐怖を覚える……覇王と黒き大徳の策に、恐怖を覚えず感嘆の念を込み上げさせてしまうのも、である。
――命さえあれば、きっと幸せになれるから。
生きている限りは幸せを探せるから、と。
奇しくもその思考は七乃が持つ狂愛の雛型で、孫呉が掲げてきたモノの根幹。
立場が違えばこれほどまでに違う。
胸の中にある気持ちを吐き出した。
この安堵は確信から。七乃の有能さを知っている為に、七乃を従えたい敵が美羽を殺すわけもない、と。
ほろりと涙が一筋。
まだ確実な情報として手に入れてなくても……それで間違いないと“勘”が告げていた。
一番上の姉がよく言っていた。これがそうなのかもしれない。なんとなく分かるこの勘を、彼女は信じることにした。
「ふふ……そっか、生きてるんだ」
なぁんだ、と彼女は零した。
少女にしては大人びた笑みだった。
「じゃあさ……」
これでいい、これでいい。
自分の中の澱みは大きく浄化された。あとは、自分のしたいようにするだけだった。
「守ってあげられるくらいに、シャオが伸し上がっちゃえばいいんだ。そうすればどっちも救えるしどっちも幸せになれるよね?」
袁術としては暮らせなくとも、ただの友達としてでも傍に居てくれたらそれでいい。美羽は美羽であり、袁術でなくともよいのだから、と。
それがどれだけ異質な思考か彼女は分からない。
しようと決めたことが何処かの壊れた男の在り方に似ているとも、彼女は知らない。
毒は知らぬ間に成長していく。周りの為にもなるのだから気付くこともなく。
七乃が残した袁家の毒は、本人さえ考えの及ばぬ大きさになろうとしていた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ